「人を裏切らない」「人に迷惑をかけない」
――昭夫副会長は新聞のインタビューに答えて、事業会社のロッテの上場を検討する方針だと答えていますが、それについてはどのように考えていますか。
事業会社のロッテを上場すると弟が発言したことが報じられていることは知っています。しかしその真意はよくわかりません。事業会社のロッテは製造部門で販売はロッテ商事が担当しています。製造部門だけを上場させるというのはどういうことを意味しているのでしょうか。会社のコンプライアンスや透明性を強化するために上場するのであれば、ロッテホールディングスを上場すべきなのではないでしょうか。ただ最近は相当無理してM&Aをしているようですから、そのための財源の手当てが必要なのかもしれません。
――韓国でもホテルロッテの2016年に向けて上場を準備しているそうですが。
中国投資での大きな損失に加えて、サムソンケミカルを買収しようとしてしますので、向こうは大きな資金需要がある。そうした中でホテルロッテを上場させようとしていました。ただホテルロッテの収益構造をみてみると、ホテル部門ではほとんど収益があがっておらず、免税店の事業で利益を出しているのです。免税店事業の売り上げの半分は、本店とチャムシルにあるロッテワールド内にある2つの免税店です。韓国では免税店事業の免許が5年ごとに見直されることになり、韓国ロッテグループはワールドタワー店の免許を更新することができなかったのです。ここは最近、3000億ウォンかかけて大規模な設備投資までしていたにもかかわらずです。そのためホテルの企業価値がかなり落ちてしまい、上場で入ると見込んでいるキャピタルゲインも半減してしまっているようで、資金調達の見通しがかなり厳しくなっているようです。
――従業員や会社関係社に対してはどのように思っているのですか。
大変申し訳ないと思っています。早く収めないといけないと思います。ただ、今のままでいいのか。真面目にものをつくって、世の中になかった商品をつくって、お客様に支持をされて伸びてきた会社です。今のロッテHDの取締役は8人いるのですが、父を除けば、お菓子の製造や開発に関わってきた人はもうひとりもいません。佃さんや小林さんは銀行出身ですし、弟は証券会社出身です。あとは広告代理店から来た人がひとり、営業と資材、購買にいた人たちです。それに社外取締役がひとりいるだけです。消費者は今、食品会社に対しては非常に厳しい対応をするようになっていますが、何か事故が起きた場合に、正しい対応がとれるのか、心配でなりません。
――クーデター以降、佃社長や昭夫副会長が経営の実権を握っているわけですが、そうした経営手法をどう思いますか。
金融関係者が役員に多いせいか、どうしても減点法のような評価体制になっているようです。しかし製造業というのは、減点法ではなく、加点法で評価してあげなければ伸びない。失敗したから始末書を書けと言われていたら、社員はどんどん萎縮してしまう。いいところを評価しながらやっていかないと、メーカーの仕事というのはうまく回らないと思います。
――ロッテとはそもそもどのような会社なのですか。創業者の理念とは。
会長は20歳ぐらいのときに韓国から日本に出てきて、戦争のさ中相当苦労したそうです。それでも知り合いから「自分の空いている工場を使っていいから」と言われものづくりを始める。ところが戦争で工場が焼かれてしまい、仕事を続けることができなくなってしまった。それでも信頼してくれた人を裏切ってはいけないと、韓国に戻らずに日本でもう一度事業をやってお金を返さなければいけないということで始まったのがロッテの原点です。「人を裏切らない」「人に迷惑をかけない」というのが会長の創業の理念です。だから今の経営陣のやっていることはそうした創業の理念とは真逆のことをやっているのです。