では、遠距離ではなく、近距離で別居している場合はどうだろうか。実は、近距離の別居介護には大きな落とし穴があるのだ。

「近距離の場合、無理をして頻繁に介護に通ってしまうケースが多いのです。いくら近距離といっても、電車に乗る距離であればなんだかんだで片道1時間ぐらいかかってしまう。仕事や家事をこなしながら、往復2時間の時間を捻出するだけでも大変なことです。実は家族がダウンしてしまうケースは近距離別居のほうが多いのです」

家族の関与が多い場合、被介護者がヘルパーによる介護や料理に嫌悪感を示して受けつけないケースも多いという。親が要介護状態になると、スープの冷めない距離が最悪の距離に変わるのである。

【ケース2】要介護1で近距離介護

脳梗塞による片側麻痺状態を持つ78歳のひとり暮らしの父親を、隣の市に住む52歳の長女が介護していた。長女はなるべく父親の好みの食事を食べさせたいと思い、ほぼ毎日、料理を作りに父親の元へ通っていたが、無理がたたって体調を崩してしまった。

それまで、父親が利用していた介護保険サービスは、週2回の訪問入浴と週1回の通所リハビリテーションだけだったが、長女が倒れてしまったため、ケアマネージャーは訪問介護の回数を増やし、調理などの家事支援もサービスに組み込むことにした。ただし、父親は要介護1なので、毎回の食事を訪問介護で作るようにすると利用限度額(単位数)を超えてしまうため、夕食は宅配弁当を手配することにした。その結果、介護保険サービスの月額費用は、当初の9700円から、通所リハビリテーションの昼食代も含めて1万7000円程度に増えることになった。宅配弁当の代金は1食600円で1カ月約1万8000円なので、月額費用は〆て3万6000円程度となったのである。

さて、こうしてさまざまなケースを見てくると、自宅介護の場合、月額5万円以内で十分な介護サービスを受けられることがわかる。やっかいなのは認知症を発症しているケースだと宮本社長は言う。

「要介護2以下で認知症を発症している場合、自力で動けるので徘徊してしまうのです。しかも近所でお金を借りてしまったりしてトラブルになるケースが非常に多い。こうなると自宅で介護するのは無理。施設入所を考えざるをえなくなってしまいます」

月額500円程度(入会金は2万円程度)で警備会社がGPSサービスを提供しているが、居場所の把握ができるだけで連れ戻してくれるわけではない。自宅介護が1番困難なのは「元気な認知症」なのである。

(小倉和徳=撮影)
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