親と介護の話をする機会がないまま、介護が始まってしまう。そんなとき、どうすればいいのか。ライターの島影真奈美氏は、義父母の認知症介護をしてきた経験から「話し合うチャンスを逃しても、あきらめないことが大事。ネガティブな反応も含めて想定しておくと、“財布”を預けてもらえる確度も上げられる」と説く——。
※本稿は、島影真奈美『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
介護費用について切り出しづらい理由
「親の介護費用を子どもが負担するべきではない」と、よく言われる。子ども世代もいずれは年をとる。もちろん、介護が必要になる可能性がある。先々のことを考えるなら、親に対する経済的援助で自分の老後資金を減らしている場合ではないというのである。
夫の両親の介護がいよいよ始まるかもしれない。そう相談したとき、実の母親からも真っ先に同様の指摘があった。母は認知症の祖母を遠距離介護した経験がある。その介護費用はすべて、祖母の年金と貯蓄でまかなったという。「身の丈以上の介護費用をかけると、長続きしない」「介護費用はご本人たちのお財布から出してもらいなさい」と、繰り返し念押しされた。
母に言われるまでもなく、そうするつもりではあった。しかし、いざ介護が始まると、切り出すタイミングをあっさりと失った。次々に起きる不測の事態に対処するだけで精いっぱいで、介護費用の相談どころではなかったのである。むしろ、積極的にその話題を避けていたところもある。
「お金がかかるなら頼みたくない」「高い費用を払わなくても、自分たちでできる」などと、義父母が介護サービスの導入を渋るのを恐れていた。そうこうしているうちに、通院に必要なタクシー代や受診料、エアコンの修理・クリーニング代などの立て替えがかさんでいく。