「年収アップ」で人生は幸せになるのか?

ところで、皆さん個人の人生の「目的」は何ですか。

私の仕事上の「目的(=存在意義)」は「関わる方に成功してもらうこと」です。それがコンサルタントの使命だと考えています。「目標」としては、「100冊の本を出版する」ということでしたが、これは昨年に達成しました。しかし、目標を達したからと言って、私が現役で働く限り、目的は存在し続けるのです。

個人でも、目的と目標の違いをはっきりと区別することが大切です。

例えば、「幸せに生きる」ことが多くの人に共通する目的の1つだと思いますが、その実現にはある程度のお金が必要です。私の人生の師匠の、曹洞宗円福寺の故・藤本幸邦老師は「お金がないのは不自由」とおっしゃっていましたが、その通りです。お金がなければ、やりたいこともできず、健康的な生活を送れないこともありうるからです。

しかし、ここで大事なのは、お金を稼ぐことを目的化してはいけないということです。

わき目も降らず金儲けに邁進して、その結果、家族や友人をなくしてしまったり、健康を害してしまったりしては本末転倒です。

老師は「金は魔物」ともおっしゃっていました。目的と目標の違いをしっかり持つことが大切です。そして、その大前提が、正しい考え方を持つことです。

そのためには、以前、この連載で述べたように『論語』などの古典や仏教の考え方など、長い間多くの人が正しいと言ってきたことを学ぶことが大切です(論語に関する過去の記事はこちら、http://president.jp/articles/-/16691「リーダーが「2500年前から繰り返す」3つの過失」を参照ください)。

正しい考え方なしには、人生や企業経営の本当の目的とは何かということが分からないからです。正しい考え方を持たないことが、結果的に企業の不祥事を起こしたり、人生を不幸にしたりする大きな原因だということに気づきたいものです。

本連載、2015年分は今回がラストです。色々とお世話になりました。来年もよろしくお願いします。良い年をお迎えくださいね。

経営コンサルタント 小宮一慶(こみや・かずよし)
1957年生まれ。京都大学法学部卒業後、東京銀行入行。86年米ダートマス大学経営大学院でMBA取得。帰国後、経営戦略業務などに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役就任。96年小宮コンサルタンツ設立。企業経営の助言の他、講演や執筆も。最新著は『松下幸之助 パワーワード ―強いリーダーをつくる114の金言』(主婦の友社)、『小宮一慶の1分で読む!「日経新聞」最大活用術 2015年版』(日本経済新聞出版社)、『No1コンサルタントが教える 20代の後悔しない働き方』(青春出版社)、『一流に変わる仕事力』(中経出版)など。
関連記事
山一證券、ソニー、東芝「沈没する会社の共通点」
リーダーが「2500年前から繰り返す」3つの過失
東芝事件は氷山の一角!? 組織ぐるみで1000万円経費流用した支店長
東芝「不適切会計」の泥沼! 室町社長に会社再建を託せるか
東芝不正会計の温床は、「選択と集中」にあり