言うまでもなく、そう簡単な作業ではない。

「お客様は、自分のことをわかってくれた、思いを受け止めてくれたと感じないと、心の扉を開いてくださらないんです」

顧客は自分の不満の根っこが何なのかを、必ずしも自覚していない。言葉としてダイレクトに出てくるとは限らない。それゆえそのツボとなるポイントは会話の中で探っていく。見つけるには相応の経験と勘が必要だが、例えば、顧客の話が回り回ってまた元の地点に戻ってくるときは、「まだ気持ちを受け止めてもらっていないと思っていることの表れでもある」ので、そこにポイントが潜む可能性は高いという。

「ポイントを見つけたら、『そこはわかっていますよ』と言葉で積極的にお伝えしています」

あるとき、「商品が店頭にない」と電話をかけてきた相手に、遠藤さんはたまたまその日に雨が降っていたことを思い返し、「こんな雨の日にわざわざご足労いただきましたのに、今すぐ使いたいというお気持ちに応えられなくて申し訳ありませんでした」と応じた。

すると、それまで怒っていた顧客は「そう、そうなんだよ!」と一気に友好モードに転じた。

「お客様がわざわざ仰らないところをこちらが汲んでお伝えすることで、『理解してもらった』という満足を得ていただくんです」

顧客の不満のベクトルが180度変わる瞬間はやはり気持ちがいい、と遠藤さんは言うが、かつては「化粧品が気に入らない」という客への対応のため、店舗からの要請で営業担当と2人で直接出向き、その場で客に頭から冷めたコーヒーを掛けられたこともあった。

「今ならもっときちんと対応できた。厳しい言葉に泣いたこともありましたが、経験を積んで克服できたと思っています」――ゆったりとした口調は、今後も同社のファンを数多く生むに違いない。

(水野真澄=撮影)
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