国民皆保険制度を守るための改革を
大学病院などの特定機能病院は、新しい治療の開発が使命ではあります。しかし、今のまま、急性期医療を行う病院の多くが最新治療を無尽蔵に取り入れていけば、いまの国民皆保険制度は守れません。金融資産のある人は、自分の財産を銀行預金に80%、ミドルリスクのものに10%、ハイリスクのものは5%などと、運用の割合を決めていると思います。それと同じように、例えば、特定機能病院は臨床試験5%、高額で先進的な医療15%、従来から行われてきた医療80%といったように、医療のポートフォリオの割合を決め、従来通りの治療法の価値も見直すということも必要ではないでしょうか。
患者さんの自己負担も、従来型の科学的根拠に基づいた治療の人はこれまで通りの保険診療で、高額な最新治療を選ぶ人は税金と自己負担を増やす、その中間の医療には税金か自己負担額のどちらかを増やすといったように、選ぶ治療によって負担の仕方を変えるといったように、皆保険制度を守るための改革が必要です。
日本放射線腫瘍学会が、がんの治療に使われている重粒子線治療や陽子線治療について、「前立腺がんなど一部では、既存の治療法との比較で優位性を示すデータを集められなかった」とする報告書を出したことが報道されました。重粒子線や陽子線を使った治療には高額な費用がかかります。従来の治療と結果が変わらないのであれば、こうした高額な治療が、先進医療(保険診療との併用が認められる先進的な医療)や保険診療で認められないのは当然のことです。
また、無駄な薬や検査など、まだまだ削れるところがあるはずです。実際には医療費として使えるお金は限られています。患者さんたちも、国民皆保険で自己負担額が少ないからといって、何でも病院へ行けば安心、薬をもらっておけば安心というような風潮は卒業すべきではないでしょうか。国民皆保険制度をどうやって維持するのか、医療者も医療の消費者も真剣に考えなければいけない時代が来ています。
順天堂大学病院副院長・心臓血管外科教授
1955年埼玉県生まれ。83年日本大学医学部卒業。新東京病院心臓血管外科部長、昭和大学横浜市北部病院循環器センター長・教授などを経て、2002年より現職。冠動脈オフポンプ・バイパス手術の第一人者であり、12年2月、天皇陛下の心臓手術を執刀。著書に『最新よくわかる心臓病』(誠文堂新光社)、『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)、『熱く生きる 赤本 覚悟を持て編』『熱く生きる 青本 道を究めろ編』(セブン&アイ出版)など。