若い世代はどうなのか。福井市の南に位置する越前市に暮らす前田利隆さん(27歳)を訪ねた。

前田さんは田中さんと同じく農家の長男として育ったが、学生時代は「農作業や地区の行事のせいで遊べないのは嫌だった」。高専卒業後、就職した先は国土交通省の近畿地方整備局。福井も管轄地域に入っているが、神戸や京都で1人暮らしをする期間も長かった。

「都会は自分の肌に合わないことがわかりました。時間の流れが早すぎるんです。ちょうど中学の後輩が地元のラジオ番組制作のボランティアに誘ってくれたので、戻ることにしました」

ラジオ番組を制作する前田さん(右)。「仕事にゆとりがあるのでオフも充実しています」。

昨年、越前市役所に転じた前田さん。生真面目な印象を受けるが、大阪出身の働き者の女性を連れて帰ってきた。いずれは実家に戻って父母と一緒に暮らすつもりだが、今は市役所から自転車で10分のマンションで2人暮らし。市の中心部でも家賃は駐車場2台分を含めて6万円ほどだ。

妻は、自宅近くの縫製工場でパートとして働く。前田さんの給料で生活をして、妻の稼ぎは貯蓄に回しているという。なお、前田家は農家なので野菜や米を買う必要はない。

「母も祖母も、農業をやりながら外でも働いていました。思えば、同級生のお母さんで専業主婦なんて聞いたことがなかったですね」

父、母を含めた家族全員で住む。それぞれが働き、助け合う。都会では忘れられつつある「当たり前のこと」を自然と実現しているところに、福井県民の幸せの根源があるのではないか。

ちなみに、筆者にはまだ子どもがいない。もしできたら、3世代同居を検討しよう。真剣にそう思った。

(川口奈津子=撮影)
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