ビジネスの源流となったジレット

両替事業への進出も画期的でした。当時、江戸では金、大阪では銀が決済に使われていました。京で反物を仕入れるには江戸で儲けた金を銀に替える必要がありますが、越後屋は自分たちで両替事業を開始。しかも、顧客として大坂城を得ました。大坂城は、西日本各地から入ってきたお米を売って銀に替え、それを金に両替して江戸城に納める仕事を担っていました。これは呉服事業のお金の流れと逆です。越後屋は両事業を組み合わせることで、金や銀を両替したり、東西に移動させたりする必要を激減させたのです。

「浮絵駿河町呉服屋図」

現金掛け値なしや店頭販売、両替ビジネスといった手法は、それぞれは競合にとっても不可能なものではありません。しかし、越後屋はそれらを組み合わせて、300年続く事業をつくりあげました。まさにビジネスモデル変革によって持続性の高いイノベーションを起こしたわけです。

ビジネスモデル史にインパントを与えたという点では、キング・ジレットのイノベーションも忘れてはいけません。彼は1904年に、刃を使い捨てにする安全剃刀で特許を取りました。本体を安く売り、使い捨ての部品で儲ける「替え刃モデル」です。それまでも消耗品で儲ける手法はありましたが、替え刃モデルは、商品を2つに分けて、メインの機能を消耗品化したところが斬新でした。

替え刃モデルはジレットを大儲けさせただけでなく、多くの企業に活用されました。コピー機とカートリッジ(キヤノン)、最近ではコーヒーマシーンとコーヒーポッド(ネスレ)も替え刃モデルです。

一方、サービスを安く提供して本体を高く売る「逆替え刃モデル」もあります。アップルのiPhoneとiTunesは逆替え刃。ジレットの替え刃モデルは、このように多くのビジネスの源流となりました。