一生エコノミーか、「いつかファースト」と思う人生か

海外へ旅をするとします。そのとき、一生涯エコノミークラスでいいやと思うより、ファーストクラスに憧れながらビジネスクラスに乗っていくくらいの感覚のほうが楽しいでしょう。極端な言い方ですが、エコノミーしか知らない人とビジネスに乗りながら次はファーストクラスだなと考えている人では、やはりその先の人生がだいぶ違うのではないでしょうか。

もちろん、ファーストクラスは贅沢なわけですから、どうしたって自腹を切らなくてはいけない。ここも大事なんです。

私の仕事は、小説を書くために膨大な資料と取材を必要とします。出版社に出していただく部分もありますが、できる限り自腹を切っています。何事も自腹を切ってやらないとダメだと思います。

ほかの仕事をするにもお金がかかります。新刊が出て、何本かテレビ番組に出るとしますよね。そのたびに、服を新調したりするし、ヘアメークをつけます。全部、自腹です。しかも、出演料がいくら出るかなんて最初に聞かないですし、出たところで文化人枠ということで、けっして高額ではありません。服を新調しメークをつけたら持ち出しになることもあります。

作家がテレビに出るのは、パブリシティーで出ているのであって、ギャラが目的ではない。ちゃんと事務所に所属してマネジャーをつけているような一部の作家は、この限りではないと思いますが、私の場合はそうです。自腹、持ち出しが当たり前です。

それでも、お金を使えば使うほど、返ってくるものがあるんです。人のつながりと仕事です。

20代のデビューからいままで途切れることなく仕事に恵まれてきたのは、人の縁によるところが大きいです。

同時に、小説を書くという仕事のうえでも、若い頃からお金を惜しみなく使ってきたことが大いに役立っています。バブルの頃などには高級な和服をずいぶんと買ったものですが、あの経験があったから、時代小説を書くときに和服を描写することができる。お金を使った成果だと思います。

ほかにも、国内外の舞台や演奏会などを観るために使ったチケット代や、一流シェフや職人が腕を振るう店での会食にかかるお金も含めて、すべてがいまの仕事に役立っている。知的な好奇心を満たすために使ったお金は、ぜったいに無駄ではないのです。