ただし、仕事に恵まれているだけでお金が稼げるわけでもありません。何が必要かといったら、言うまでもないですが、とことん働くことです。

13年はヒット作品に恵まれましたが、私たちの仕事は安定しません。本当によく調べて書いたなとか、これはいいものが完成したなと自分では思っていても、その本が売れなかったりします。どんな本を書けば売れるかなんて、長年作家をやっていても、わかるものではないのです。

しかも自由業者は前年の収入で額が決まる予定納税を行う必要があるので、1年の途中で、半年分くらいの所得税を払う必要も出てきます。だから、冒頭の話に戻りますが、うまくいっているときでも不安感を持っているのです。その不安感の中にあっても、素敵な服を着て好きな人に会い、おいしいものを食べ、歌舞伎やオペラや展覧会などを観て歩くために、やはり惜しみなくお金を使いたい。

そのために、とことん働くのです。週刊誌のコラムが2本、週刊誌の対談が1本、それから月刊誌で小説の連載を4本かかえて走ってきた13年は、いま思うと、死ぬほど働いたなと思います。

私は作家という職業が好きだし、誇りを持っています。そんなふうに、自分の仕事に惚れ込んで一所懸命やることが、お金を得るために必要であることは言うまでもありません。

ほかのことについては、わりと楽観的です。たくさん使うためにはたくさん働くわけですけれど、本はいつも売れるとは限らない。

だから、不安ではあるのですが、だからといって節約はしないですよ。まあ、借金さえなければ、いいのかな、くらいに考えている。

そうして、もし、お金に困るような、いざという時期がきたとしても、そのときはそのときで、いま住んでいる家を処分してどこかに移り住めばいいと思っている。まあ、先々のことは、なんとかなるだろうと。

作家 林真理子(はやし・まりこ)
1954年、山梨県生まれ。日本大学芸術学部卒。82年エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』が大ベストセラーに。86年『最終便に間に合えば』『京都まで』で直木賞、95年『白蓮れんれん』で柴田錬三郎賞、98年『みんなの秘密』で吉川栄治文学賞。週刊文春やan・anの長期連載エッセイも人気。直木賞など多くの文学賞の選考委員も務める。『不機嫌な果実』『下流の宴』『正妻 慶喜と美賀子』(上・下)など著書多数。2013年、『野心のすすめ』が45万部のヒット。
(構成=大竹 聡)
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