別の統計の手法も示しておこう。我々経営コンサルタントがしばしば使うのが、相関分析である。これは、複数ある指標を取って、どれとどれが関連して動いているのかを見るもので、関連性の高いものどうしは、相関係数が高いと表現する。たとえば、ホテルのお客様満足度。設備の具合や接遇、レストランの食事などについての満足度が関わっているが、お客様満足度全般とどれが相関係数が高いかは、意外にわかりづらい。

私の顧客である某病院で10年ほど統計を取り続けているが、患者の満足度との相関係数が非常に高いのは「医師の言葉遣い」である。信頼度といい換えてもいいかもしれないが、医師が丁寧に説明してくれるか、邪険にするかが、患者の満足度を大きく左右するのである。一見、待ち時間の長さといった数字が満足度と直結しそうだが、よくよく分析すると、待たされることへの患者の不満は確かに高いものの、患者はある程度待たされることを覚悟しているため、全体の満足度との相関係数は実は低いのだ。

素人が統計分析で間違えるのは、まさにここである。駆け出しのコンサルタントなどは、多様な指標を集めもせず、集めてもその相関性もよく見ずに、まず待ち時間のような目につきがちなところから着手しようとする。そして医師たちに、「早く切り上げてください」「3分以上経ったら帰してください」などとアドバイスするのである。

しかし、病気の度合いは患者によって異なる。一律に診察時間を短縮するなど不可能だ。しかもこうした医師の応対や言葉遣いは、前述のように患者の満足度を著しく落とす結果を招く。

そもそも、病院は患者が病気を治す場所である。待ち時間に関する満足度だけしか見ずにそこだけ改善しようとすると、かえって全体の満足度を落とすことがある。

実際に、病院での待ち時間の改善をうたったコンサル会社のレポートを見たことがあるが、論外だった。数字もなかなか奥深いのである。

小宮コンサルタンツ代表 小宮一慶
1957年生まれ。京都大学法学部卒業、米ダートマス大学経営大学院でMBA取得。96年、小宮コンサルタンツ設立。著書多数。
(構成=西川修一)
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