「酔うと新しい記憶をつくりにくくなりますが、過去の記憶が使えなくなるわけではありません。脳には、ナビゲーションニューロンという神経細胞があります。これは、通い慣れた道の風景、つまり視覚情報に対して、『この信号は右に曲がる』といった指示を出す神経細胞です。ナビゲーションニューロンは頭頂葉にあって、頭頂葉はお酒に強い。そのため前頭葉や海馬がやられて記憶が曖昧になっても、家にはきちんとたどり着けるのです」

もちろん家に帰れたとしても、大事な会話を忘れるようではビジネスパーソンとして失格だ。やはりお酒は飲まないほうがいいのだろうか。泰羅先生は、「ほろ酔い程度なら、メリットのほうが大きい」とアドバイスをする。

「人間は根本的に、うれしい・楽しい・好きなことをはやりたいが、嫌なことはやりたくないという行動規範を持っています。ただ、それでは社会生活が送れないため、理性によって折り合いをつけています。脳でいえば、前頭前野で理性を働かせて、情動を司る辺縁系を抑制している状態です。2つのバランスがうまく取れていればいいのですが、なかには理性で情動を抑え込みすぎて強いストレスを抱えている人もいます。バランスを取るには前頭葉の働きを少し緩めるといいのですが、自分の意思で前頭葉の働きをコントロールするのは困難。そこでアルコールの力を借りて前頭葉の働きを弱め、バランスを取ってあげるのです。飲みすぎないことが原則ですが、万が一、飲みすぎてもトラブルにならないように、気の合った仲間と楽しむ飲むことを心がけてください」

泰羅雅登(たいら・まさと)
東京医科歯科大学
認知神経生物学分野 教授東京医科歯科大学大学院歯学研究科博士課程修了。日本大学大学院教授を経て、2010年より現職。認知神経科学の研究に取り組む。脳科学をテーマにした人気ドラマも監修。
(加納真男也=撮影)
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