一番の社会変革は交通事故死ゼロ

そうした自動運転の実現によってもたらされる一番大きな社会変革の目指すところは、交通事故死をゼロにすることです。1年間に交通事故で死亡する人は、いま世界で約120万人に達します。でも、世界保健機関は新興国のモータリゼーションで、その数が倍になると予測しています。衝突を回避するパワーコントロールシステムなどを組み込んだ自動運転が実現し、交通事故死をゼロにすることは、車づくりに携わる者にとっての長年の夢でもあります。

グラフを拡大
自動運転実現へのロードマップ

すでに自動運転の効果が実証済みのものもあります。高速道路で渋滞を引き起こす大きな原因は、下り坂から登り坂に切り替わる“ザク部”と呼ばれるところで、無意識のうちにブレーキを踏んで減速してしまうこと。そこへ車間距離制御システム(ACC)を搭載した車を3割ほど混入させると、渋滞が約5割削減されることが国土交通省の実験でわかっています。渋滞で失われる経済損失は12兆円ともいわれ、その解消による経済効果は計り知れません。

馬の場合、一緒に走る人とのコミュニケーションを楽しんでいました。それが閉じられた空間である自動車ではできなくなりました。でも、ITSによって走行履歴などがクラウドシステムに蓄積されることで、自分が行きたいと思っていたところに、黙ったまま連れていってくれるようにもなります。これは新しいイノベーションの起爆剤になるでしょう。

たまに自動運転なら眠ったままでもいいのですかと聞かれることがあります。でも、馬は乗り手が眠ったりして先に行く意思がないとわかると、前には進まないそうです。自動運転で絶対にできないとはいいませんが、法制度を含めてハードルがかなり高いように思えます。

ITSジャパン会長 渡邉 浩之
1943年生まれ。67年九州大学大学院工学研究科修士課程修了後、トヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)入社。2015年現在、同社顧問。
09年より現職を兼務。
(伊藤博之=構成 南雲一男=撮影)
関連記事
独BASF「50%軽量化」で日本の自動車部品市場攻略へ
トヨタが燃料電池車の特許を無償開放した本当の理由
マツダ「クリーンディーゼル」でV字復活は本物か?
成長戦略の中核「水素ステーション」は危険すぎる
日本車メーカーに新たな「チャイナ・リスク」か?