羽生名人の負けをなぜ予言できたか
もちろん不安が小さくても風が吹いてくれず、状況が悪化していくことはあるだろう。そういうときは勝負から下りる勇気も必要だ。下りるといっても、尻尾を巻いて逃げるように撤退するのは感心しない。気持ちを強く持って、堂々と気持ちよく敗ける。それが次につながっていく。
将棋の名人戦第一局で羽生善治名人の対局を見ていたら、相手の棋士が60手くらいで投了したことがあった。私は将棋に詳しいわけではないが、その姿を見て「相手の棋士は見切りがいい。羽生さん危ないぞ」と感じた。羽生さんとは仲がいいので会ったときにそのことを伝えたが、二局目、羽生さんは迷いが生じたような将棋で負けてしまった。そのとき勝った棋士は、引き際をわきまえていて、見苦しい引き方をしなかった。それが運を引き寄せたのだろう。
麻雀でいえば、ツイていないときは当たり牌を絞るのではなく、放銃(相手に振り込むこと)してしまったほうがいい。放銃したら点数が減って損だと思われるかもしれないが、そんなことはない。当たり牌を振り込んで相手にあがらせてあげることで、卓上は活性化する。活性化したほうがみんな気持ちよく打てるし、めぐりめぐって自分にもいい手がやってくる。そういうものだ。
おそらく仕事も同じだ。状況が厳しいときに自分1人だけ逃げると、職場全体が悪くなってかえって状況が悪化する。どこかで引くとしても、自分が引くことで職場が活気づくような引き方をしなくてはいけない。それができる人に、運は味方してくれるはずだ。
1943年、東京都生まれ。大学時代に麻雀を始め、裏プロとしてデビュー。引退するまで20年間無敗、「雀鬼」の異名を取る。引退後は「雀鬼流麻雀道場 牌の音」を開き、麻雀を通して人としての道を後進に指導する「雀鬼会」を始める。『運を支配する』『ツキの正体』など著書多数。