「話していない新聞にコメント」の辛さ

以前、雑誌の仕事で白鵬をインタビューしたことがある。どんな質問にも気さくな感じで答え、当時の流行歌まで口ずさんでもくれた。その他、横綱を何度か取材で囲んだこともある。人のよい常識人だった。礼儀正しい白鵬がこうも変わるとは。

スポーツ・メディアも自身のことを考えるべきかもしれない。30年間、スポーツをカバーしてきて思うのは、少なくないトップ選手が「メディア・スクラム」を嫌っていることだ。イッショクタになって、手のひら返しでバッシングされると、彼らは時に「取材拒否」に走ることになる。

話は別だが、スポーツ選手は不正確なコメント引用に不信感をおぼえていく。コメント回しも同様である。かつて日本人メディアを「取材拒否」した大リーグの日本人選手にこう、こっそり言われたことがある。

「自分が話をしていない記者の所属する新聞にも自分のコメントが載る。これって変じゃないですか」

試合後、ひとりの記者に話したコメントが他の新聞にも一斉に出る。時には誇張や誤った表現になっている。これは当事者にとってはつらかったようだ。

話を戻せば、白鵬はもはや大横綱である。モンゴルから来日し、言葉や文化の違いを克服し、いまの地位を築いた。ハンパな努力ではここまでなれない。

確かに耳の痛い直言を受け止める度量が求められるが、異国の地で白鵬はよくやっているのではないか。スポーツ・メディアのみなさんにお聞きしたい。横綱白鵬をリスペクトしていますかって。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。2015年春より、早稲田大学大学院に進学予定。
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