・「頭を使う」戦略的な能力開発を

リーダー育成に対する投資は、会社の優先課題とかみ合っていなければならない。課題を見極めて、部下に必要なスキルを身につけさせるのだ。

ある通信企業は、個別製品の販売からカスタマー・ソリューションに重点を移しつつあった。同社の販売ディレクターは、新戦略に対応するには、複数のグループから製品を集めてこられる営業マンが必要と判断。彼は、「一匹狼」タイプの営業マンで構成された自分のチームに、協働する能力を身につけさせる必要があると考えた。

彼は、市場シェアと利幅を拡大するために、なぜソリューションが重要なのかをチームに説明した。さらに、主要顧客にソリューションを提供するためには、他のメンバーやさまざまな製品グループとどう協力すべきかを理解させた。1年後には、彼のチームは複数の製品ソリューションの販売件数を大幅に増やしていた。

多くの上司は、ずば抜けた社員以外の部下も切り捨てることなく、能力開発を行おうとする。しかし、「人材管理を投資と考えるなら、ほとんどの時間と資源を優秀な部下に投資してしかるべきだ」と、シスコ・システムズで、グローバルのリーダーシップ育成を担当している上級マネジャー、リサ・カバラロは言う。「ほとんどの場合、最優秀社員こそが、最も高いリターンを生み出せるのだ」。

組織にとって、必ずしもすべての職務が重要というわけではないのだから、最も重要な職務を担う潜在能力のある人々に重点を置くべきなのだ。ただ、今、潜在能力が見えていなくとも、将来的に成長を見せる者がいるかもしれないことは念頭においておこう。

あるグローバルな化学薬品会社は、短期間でゼネラル・マネジャー(GM)を育てる能力で、業界で有名になった。

同社の欧州・中東事業部社長が、会社の成長にGMの果たす役割が不可欠なのに人材が育っていないことに気づき、改革に取り組んだのがきっかけだった。彼は潜在能力を持つ人材を特定し、直属の部下1人ひとりに、これらのGM候補者のために能力開発計画を立てて指導し、四半期ごとに進捗状況の報告を命じた。1年足らずで、社内に「いつでもいける」GM候補者の数が6割も増加していた。