実は部下にバカにされていないか? →頼んだ仕事をなかなか進めない
ベイン出身の秋山浩保氏は、宅配ピザを手がけるフォーシーズなどの役員を歴任した後、09年に千葉県柏市の市長に41歳で初当選した。外資系民間企業から日本の地方自治体へ。アウエー中のアウエーで孤軍奮闘中だ。
「市役所幹部の半分以上は私より年齢が上ですし、私は行政経験がまったくありません。多くの人が『秋山が思っているほど単純(な仕事)じゃないよ』という印象を抱いていたと思います。お手並み拝見、ですね。この新しい市長、何も知らない中で何を言うんだろう、と」
秋山氏は、民間・行政を問わず既存組織にトップとして乗り込むと、メンバーの反応は3パターンに分かれると指摘する。敵対する人、すり寄ってくる人、そして「様子見」たちだ。こちらをバカにしている人、信用していない人は、一体どんな態度を見せるのだろうか。
「どんな組織でも、自負が強くて『よそ者』に敵対する人は、少数ですが必ずいます。しらけた顔をしていたり、頼んだ仕事に手をつけなかったり……。理屈ではなく感情的な反発だと本人もわかっているんですよ。でも、感情が先だってしまう。その場合は、とにかく『人間秋山』を知っていただいて、この組織をよくしていこうという気持ちの共有を図ります」
逆に、肩書や権力に弱く、保身に走る人もいる。頻繁に話しかけてきたり、あからさまに尊敬していますと言ったりして、積極的に好意を示してくるタイプだ。
「語弊を恐れずに言えば、すり寄ってくる人は『ダメな人』です。いろいろ話を聞かせてくれるけれど、分析や解釈が一面的で、本質は捉えていない」
問題は圧倒的多数の様子見たちだ。自分から話をしようとはしない、仕事は淡々とするが躍動感がない――。何を考えているのか推測しづらい彼らの態度に、実は陰でバカにされているのではと不安を募らせる上司もいるだろう。だが、秋山氏はこのような「超受け身」のコミュニケーションをとる人に理解を示す。
「必ずしも敵意があるわけではありません。こちらがどんな人間かわからないので、指示を待っているだけなんです」
とはいえ反応が乏しい人に話しかけるのは空しい。秋山氏は「鈍感になる」ことを勧める。
「(新しい部署に着任して)最初の1カ月間は、極端に言えば『一対全員』の構図です。いい意味で鈍感になるしかありません。『最初はこんなもんだ』と」
敵対してくる人には「感情に訴えかける」、すり寄ってくる人には「距離感を保つ」、そして様子見の人たちには「鈍感になる」という教訓が得られた。では、最大勢力の様子見たちを味方に引き入れるにはどうすればいいのか。
辺見氏によれば、「部下からは常に、ある意味ではバカにされている」と割り切ることが、リーダーシップを発揮して成果を挙げる近道だという。
「僕は東ハトでお菓子屋さんの社長を初めて務めました。最初はわからないことだらけです。例えば食品衛生の問題。ちょっとしたことで大変な騒ぎになりかねません。そういうときは自分の手に余ることを認め、よくわかる人に任せることが重要です。社長であろうが、人格や能力の様々な軸で見たら絶対に部下より劣るものはある。それに、部下に『上司とは実力差が大きい』と思われるのは、実はあまりいいことではない。上司だって不確かなまま指示を出すことがあるのに、部下はそれを疑いもせず実行に移してしまいかねないからです。これは危険です」
ある部分では部下にバカにされて支えてもらうほうがいい。任されれば部下もやりがいを感じるのだ。こう腹をくくると気が楽になるし、仕事もはかどる。まさに一石二鳥ではないか。