禁断の営業「ABCテクニック」とは

喫茶店で私が「ちょっと質問してもいいですか?」と言うも、女性は困った表情を浮かべ、「このビジネスの成功者である男性が後ほど話をするので、その人に質問してほしいと」と言う。その男性は浄水器の販売で数千万円の利益を手にした人物らしく、女性はとにかくこの男性を持ち上げる。

それからまもなくして、男性がやってきて、このマルチ商法へ参加することの素晴らしさを訴えた。

「私はこれまでに様々なビジネスを手掛けてきましたが、このビジネスは凄い! まだ誰もこのビジネスの素晴らしさに気が付いていないので、今から始めればかなり稼げるはずです」

そして、こう言うのだ。

「今の期間は、1カ月以内に代理店契約をしてくれる人を3人以上見つけて入会させると、さらに数万円のボーナスも受け取れます。いい時に参加しましたね」

最後に「やればやっただけ、儲かる仕組みです」と言いながら、ようやく登録費用が20万円ほどかかることを告げた。ついに馬脚をあらわしたのだ。その間、私を連れてきた女性は、ひたすらに目を輝かせ、隣でしきりに頷く。そして、ことあるごとに、男性とともに「やってみましょうよ」と参加を促してきた。

マルチ商法では、説明会後、喫茶店などに連れ込み、2人以上で契約の説得にあたる。この勧誘手法は、説明をする先輩や成功者(アドバイザー:Adviser)のもとへ、橋渡しをする人(ブリッジ:Bridge)が、客(カスタマー:Customer)を連れてくることから、それぞれの英語の頭文字をとって「ABCテクニック」などといわれる。

この三者の形で勧誘を進める手法は、詐欺・悪質商法のいたるところで使われる。たとえば、霊感商法では、街頭のキャッチセールスや訪問先で出会った人(C)を、連れ込み役(B)が、霊能師役(A)のもとに誘い込む。

ここでは、連れ込み役のBの「つなぎ」(ブリッジ)という行為が重要になる。

水が上流からが下流に流れるがごとくに、Aの説得役を「自分が足元に及ばないようなすごい人だ」と持ち上げることで、Cの客に話を聞かせるという流れをつくれる。