秩序ある混沌、自由豁達にして愉快なる職場。これを、天外氏は「フロー」の状態と呼ぶ。フローとは、アメリカの著名な心理学者M・チクセントミハイによれば「困難ではあるが、価値のある何かを達成しようとする自発的努力の過程で、身体と精神を限界まで働かせ切っているときに生じる、最良の瞬間のこと」を指す。つまり、かつてのソニーはフロー経営を実践した。社員の内発的なやる気を促し、その行動の自由度を最大限に認めていた。

しかし、合理主義的経営を導入した結果、経営者や上司が部下のエンジニアの自由度を狭め、管理・コントロールし、指示・命令のもとノルマを課す、といったいわば外発的な動機によって社員を動かすようになったというのだ。それは理想のフロー経営の正反対だと、天外氏は語る。

「マネジメントの手法をアメリカのマネをしたためにソニーは迷走しましたが、他の大手メーカーなども似た状況に陥りました。いま一度、日本企業は社員が“燃える集団”となるような職場環境を目指すべき。そうすれば、奇跡が起きます」(天外氏)

天外氏主宰の経営塾には全国から多くの経営者などが集まるが、その塾卒業生たちの企業の経営は軒並み好調なのだという。塾参加者には、サッカー日本代表の元監督・岡田武史氏もいる。就任したばかりのJリーグのチームを優勝に導くなど手腕には定評があったが、あるとき監督としての限界を感じ、天外塾の門を叩いた。そして、その成果をW杯南アフリカ大会で発揮した。

「以前は管理型の監督だった岡田さんは、選手の自主性を重視し、自分で考えさせるマネジメント法に変わりました。叱責や命令ではなく、選手が自分のプレーをビデオで確認しているときに、『いいドリブルだ』などとそばでつぶやいて、選手の深層心理にポジティブなメッセージをすりこんで、選手のモチベーションを高めるような工夫をしていました」(天外氏)