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従業員の“心の病”につながる原因は?

トップ営業マンに注目することで、実際の営業活動に役立つこともあった。不動産仲介では、一般的に強気の値段設定を提案したほうが売り主に喜ばれる。しかし、小山さんは今年に入り、「この先、値崩れが起きる可能性があります。高く設定して買い手がつかないと資産効率が悪いので、先手を打って1割安い設定にしましょう」と提案して商談をいくつもまとめている。じつはこのトークは、優秀な先輩が電話でお客様に話していた内容を真似たものだ。

「経済環境の変化によって、お客様に説得力のある営業手法も変わります。それを見極めるには、お客様のニーズに敏感なトップ営業マンに注目するのが一番です。営業は基本的に個人プレー。待っていても教えてくれるわけではないので、自分で見て盗むしかない」

一方、ハウスメーカー勤務の河口さんは、今年から顧客データの分析に力を入れている。以前は、子供の成長とともに手狭になる団地にチラシを撒くなど、とにかくある程度収入が見込める層に営業をかけていた。ところが、最近は家を買う意思があってもローンを組めなかったり、長期ローンに不安を感じて断念する人が急増。そこで直近の顧客データを分析したところ、定年退職した団塊世代や、団塊から援助を受けたその子供世代が多いことがわかった。

「いままではお客様のキャッシュフロー(収入)に着目した営業戦略で、一定の成果を残すことができました。しかし、市場環境が変わったのに、いつまでも同じやり方が通用するはずがない。先行き不透明ないまは、むしろストック(資産)に注目してターゲティングを行うべきです。ちなみにこの分析結果を会議で報告したら、行き詰まっていた上司の表情がパッと明るくなり、すぐに支店全員で共有することになりましたよ」

2人に共通しているのは、市場環境の変化に臨機応変に対応しようとする姿勢だろう。これまでそれなりに成果をあげてきた人ほど、自らの成功体験に縛られてしまうものだ。

しかし、過去のやり方にとらわれるほど、この難局を乗り切ることも難しくなる。かつてないほどのノルマ圧力は、案外、自分のやり方を見つめ直すいいチャンスなのかもしれない。