言葉による虐待の傷は一生消えない
身体的虐待について主に紹介してきたが、子育て漫画家の高野優さんは自身の体験から、言葉による心理的虐待の深刻さについて語る。「おまえは家の恥だ!」――。小学5年生だった彼女は、父親のその一言で堪忍袋の緒が切れた。物心がついた頃から成績優秀な6歳上の姉と常に比べられ、否定され続けていた。「クリスマスツリーはこんな飾り付けがいいと言えば、『子供の浅知恵』と否定され、同級生の母親にほめられたと伝えれば『社交辞令だ』と退けられ、立つ瀬がありませんでした」
父親の「家の恥」発言をきっかけに、小学校の担任に相談したが、「厳しい躾ができる、いいお父さんじゃないか」と取り合ってもらえず、彼女はそのままバスに乗って地元警察に駆け込んだ。当日夜、親も警察に呼ばれたが、以降、父の彼女への言動はさらにひどくなった。
だが、心理的虐待の基準は曖昧。先の川崎氏によると、親が「おまえは生まれてこなければよかった」などという言葉を繰り返し、子供を自尊心が持てない状況に追い込むなどが1つの目安だという。高野さんへの父親の執拗な言動は「心理的虐待」といえる。彼女は今、父親はもちろん、彼から自分を守ってくれなかった母親とも疎遠なままだ。
「叩かれてできた傷は時間がたてば消えますが、言葉の虐待によってできた心の傷は一生消えません。だから『叩かない虐待』もあることを、多くの親にも知ってもらいたい」
「叩くのも躾のうち」という法的根拠
取材を続ける中で「懲戒権」という言葉を知った。親権(親が未成年の子を監護、教育などをする権利や義務のこと)の1つで、親が、わが子の非行や過ちを指導するためなら子供を叩いてもいい権利のこと。1898(明治31)年に施行された民法第822条第1項に、「親権を行なう者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる」と書かれていた。日本人の「叩くのも躾のうち」の法的根拠といえる。2000年の児童虐待防止法施行後、この条文が問題視されるようになったと川崎氏は言う。
「2年前の民法改正時、親権の行使について『子の利益のために』という言葉が追加されました。つまり、暴力を振るうことは子供の利益にならないので、『叩くのも躾のうち』という親の言い分が、法律上は通用しなくなったのです」