「飲むサングラス」で仮説に挑む

ウェット型加齢黄斑変性には眼球注射という治療法があることは前回書いた通りなのですが、ドライ型には認可された治療法はまだありません。ウェット型、ドライ型ともに、世界では様々な製薬会社やバイオベンチャーが治療薬開発に挑んでいる疾患です。

私たちが臨床開発しているのは加齢黄斑変性の中でも末期症状の地図状萎縮をおこしているドライ型に対する新薬候補で、1日1錠の飲み薬。錠剤タイプの経口薬は服用しやすいので、眼球注射に比べて医師や患者さんへの負担の軽減が見込めるものと期待しています。この新薬候補は、目を見える状態に保ちながら、目の中にある光の明るさを感じる桿体細胞という視細胞にだけサングラスをかけたような状態をつくるので「飲むサングラス」と例えられています。

網膜には脳に映像を認識させるために光を電気信号に変える働きをする「視覚サイクル」と呼ばれる仕組み(網膜内で連鎖的に起こる化学反応)があります。この視覚サイクルは 明るい光や強い光に曝露されると 、長期的に有害な副産物を生成してしまうことがあります。この副産物が消化されないまま長い年月をかけて蓄積されると、視覚サイクルの働きそのものに支障をきたすだけではなく、網膜を損傷させて、やがて視力低下、もしくは、失明に至ると考えられています。

光を過剰に浴びてしまうことが網膜の損傷を招いてしまう。それならば、視細胞が過剰な光に反応しないようにしようではないかというのが「飲むサングラス」のコンセプトです。要するに強い日差しから目を守るためにサングラスをかけるのと同じで、視細胞のうちわずかな光にも反応する桿体細胞だけにサングラスをかけるというわけです。