40歳以上の20人に1人がかかっており、「目の成人病」ともいわれる緑内障。果たしてどんな病気で、どのような治療法が効果があるのだろうか。

気づかずに視野が狭くなる怖い病気

日本国内の失明原因

日本国内の失明原因

加齢とともに増える目の病気はさまざまあり、気づきにくいものも少なくない。とくに「目の成人病」ともいわれる緑内障は、いつのまにか視野が狭くなり、見えなくなっていたというやっかいな病気だ。しかも、緑内障にかかっている患者の数は日本で300万~400万人と推定されている。なぜ推定かといえば、自分が緑内障だということに気づかずに医者にかかっていない患者が多いため、病気が発見されていないと考えられるからだ。

日本緑内障学会が岐阜県多治見市で2000年から01年にかけて行った「多治見スタディ」と呼ばれる調査では、40歳以上の20人に1人は緑内障にかかっており、年を重ねるごとに有病率が増加している。さらに、調査で緑内障と診断された約90%の人が自覚症状が全くなく過ごしてきたという結果が出ているのだ。また、厚生労働省が行った疫学調査の失明原因で、4人に1人が緑内障で失明し、長い間トップだった糖尿病網膜症を抜いて第1位になったことで、緑内障がクローズアップされてきた。

それでは緑内障とはどのような病気なのか。

東邦大学医療センター大橋病院眼科診療部長の富田剛司教授が「日本人に一番多いといわれている開放隅角タイプの緑内障はこれといった特徴的な症状がなく、年余にわたってゆっくり進むため病気の進行を見逃してしまう人が多い」と前置きしてこう説明する。

東邦大学医療センター大橋病院眼科診療部長・教授・医学博士●<strong>富田剛司</strong>
東邦大学医療センター大橋病院眼科診療部長・教授・医学博士●富田剛司

「緑内障は、主に眼圧が高い状態になって視覚情報を伝える視神経が圧力のために強く圧迫されて障害を受ける病気です。眼圧が高くなると、眼球内の視神経線維が集まる視神経乳頭の篩状板(しじょうばん)という部分に変形が生じ、視神経の軸索と呼ばれる部分が障害を受けて視神経の細胞が死んだり、弱くなったりする。一度死んだ視神経は再生しません。そのため徐々に視野が欠損し、放置しておくと失明します」

視神経は約100万本ほどあり、それが眼圧によって長い時間かかって脱落していくわけで、緑内障が「忍び寄る失明」ともいわれるゆえんでもある。それもかつては眼圧が高くなることが原因と考えられていたが、眼圧が正常範囲でも緑内障になることが確認され、最近は視神経の弱さも一因とされるようになった。富田教授が話を続ける。

「眼圧が21mmHg以上を高眼圧といい、緑内障になる率は高くなりますが、実際には眼圧が正常値(10~21mmHg未満)の人も緑内障になる。これを正常眼圧緑内障といいますが、患者数ではこの正常眼圧緑内障のほうがずっと多いのが実情です。正常な眼圧でも緑内障が起こるというより、健常者の平均値から割り出された正常眼圧が、緑内障を発症するような人にとっては視神経の負担になる高い数値なのだと考えられています。その主な原因は、加齢などによって結合組織といった視神経の周辺環境が変性して眼圧に対する許容性や抵抗力などが低下し、正常値内の眼圧でも耐えきれず障害が発生するのです」

「多治見スタディ」では40歳以上の5%に緑内障が見つかり、しかもそのうち3.6%が正常眼圧緑内障、つまり緑内障の約70%が正常眼圧緑内障だった。