実際の介護に関しては、そばに子供がいなくても十分なケアが受けられる環境を整えることだ。オランダでは、「看護師よりもペット、栄養士よりも気心の知れたバーテンダーがいれば幸せに暮らせる」といった考え方でケアを提供する事業者がいる。肉親が世話をしなければ、老親は不幸だと考える必要はない。

在宅で介護サービスを利用するのか、あるいはサービス付き高齢者住宅、有料老人ホーム、将来的には特別養護老人ホームへの入居を考えるのか、介護サービスについて学び、方向性を定めておこう。

そのうえで老親の住む自治体の行政窓口、地域包括支援センターを訪ね、相談員や民生委員と顔を合わせておこう。さらに、信頼できるケアマネジャーを見つけておくことが重要だ。ケアマネジャーは、介護サービス利用者にとってどのようなサービスが最適であるか、その利用計画を立てる調整役である。ケアマネジャーは地域包括支援センターで紹介してもらえるので、老親の暮らす地域を担当するケアマネジャーと面談して、最適のパートナーとなってくれる相手を探しておきたい。

同時に、老親が元気なうちに近隣の人間関係を聞き出し、挨拶をしてコミュニケーションを十分にとっておこう。自分がそばにいなくても、頼ることができる人材を確保しておくことが必要である。

最後に、老親がどのような介護を受けたいのか。どのような死を迎えたいのか、話し合っておきたい。改まって話すことが難しいテーマであるが、一度だけでいいから真剣に向き合って話すべきだろう。遠距離介護を避けるために、老親を呼び寄せるケースもあるが、本人が望んでいない転居は、百害あって一利なしである。離れていても、自分が望む地で暮らせるように、環境を整えよう。

本当に親孝行をしたいのなら、離れて暮らす親の介護環境整備に全力を挙げることである。

ジャーナリスト 中村聡樹
1960年、兵庫県生まれ。中央大学経済学部卒業。専門誌記者を経て、フリーに。介護のコンサルティング会社「地暮」を設立。主な著書に『定年後を海外で暮らす本』など多数。
(和田久士=撮影)
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