安心するほど人は孤独になる
華厳経に「インドラ網」という言葉があります。あらゆる命は網の目のようにつながりあっていて、確かに存在しているけれど、ほどけばなくなってしまう。すなわち、ロープがいろいろつながり合い、たまたまそこに網の目ができているだけであって実体はないけれど、確かにそこにある存在だと。しかもインドラ網の網の目には宝石が輝いていて、それら一つひとつの宝石を見ると、他のすべての宝石のきらめきを映し出しています。つまり、すべてのきらめきをたった一つの宝石が映し出しているのです。
自分に対する執着を手放すには強い恐怖を感じるかもしれません。しかしそれを手放したとき、インドラ網のきらめきやかけがえのなさが見えてきます。多くの命とつながりあった自分というものが確かに存在し、人はどこまでいっても孤独ではないと気付くのです。
逆に自己愛や自分への執着心の強さは、自分と他人を隔てる壁を厚くしているようなもの。壁を高くして安心を得ようとしたはずなのに、高くするほど孤独に陥ってしまいます。
いま、自殺者の多さをはじめ、孤独がさまざまな社会問題を引き起こしています。そういう時代だからこそ、ますます自分が良い縁となっていくような働きをすることが、仕事においても重要な視点になるでしょう。
善悪を離れるというと、すべきこと・すべきでないことをどう判断すればよいかと思う人がいるかもしれません。それにはインドラ網のつながりのなかに生かされていることを自覚し、自分の思いを超えた大いなる命の声に耳を傾けていくことです。そうすると根源的なレベルで世界が生まれたがっている方向が見えてくると思います。その方向はきっと、人がシステムでがんじがらめの人生を送るのではなく、心を自由に生きることであるはずです。そんな大いなる命の声に寄り添っているかを常に考えることが大切です。
1979年、北海道生まれ。東京大学文学部哲学科卒業後、仏教界へ。超宗派の僧侶が集うブログサイト「彼岸寺」開設、寺院内カフェやライブイベントなど、従来の僧侶の枠にとらわれない活動を続ける。