そのフィロソフィ教育を行う研修所は羽田空港近くのビル内にあった。廊下の掲示板には「JALアワード」の表彰者の写真が並ぶ。フィロソフィに沿って優れた行動を取った社員を表彰する制度だ。顧客が機内のトイレに落とした指輪を臭いや暑さと戦いながら、汚水の中から徹夜で探した社員たちもいた。

フィロソフィ教育のための部屋の椅子はリストラされた社員のものを再利用。

教室に入る。椅子の形・色がまちまちなのは、リストラで退職を余儀なくされた元社員たちの椅子を転用しているためだ。

「志半ばで辞めていった仲間もいる」と霜鳥が語っていたように、元社員たちの椅子は無念さを忘れないためのモニュメントのようにも見える。テーブル上には教材。この日、学ぶのは「昨日よりは今日、今日よりは明日」という言葉だった。

「二度と破綻したくない」

機長の荒川は今の思いをそう話す。もう、二度と「昨日」には戻らない。それは全員の思いだろう。JALは再生初年度の2011年3月期の営業利益が1884億円、2年目が2049億円と2年連続で過去最高益を達成。2012年秋には再上場も果たした。「成功しても驕りや慢心に陥ってはならない」。稲盛は新年の挨拶で戒めたが、「二度と破綻したくない」という思いを忘れず、全員でベクトルを合わせていく限り、JALの社員たちは「明日」に向け、さらにたくましく、強くなっていくに違いない。 (文中敬称略)

(キッチンミノル、堀 隆弘=撮影)
関連記事
<JAL>書類1枚0.15円もムダにしない執念の節約【1】
なぜアメーバ経営なら瀕死企業を救えるのか
同期13人のリストラと「会社再生」の大義 -日本航空 代表取締役社長 植木義晴氏
日本航空CEO兼会長 稲盛和夫 -「親方日の丸」にアメーバ経営は根付くか
本当に強い会社は経費削減と成長の二兎を追う