日本航空の経営再建を左右するのは稲盛和夫氏が提唱するアメーバ経営である。人材育成につながる経営手法が企業内部に良質の競争をもたらすからだ。再建における、アメーバの有効性を検証する。
稲盛氏は日本航空の再建に適任である
破たんした日本航空の経営再建が京セラの創業者、稲盛和夫氏に委ねられることになった。稲盛氏は部品製造業の出身で航空サービスには素人だから大丈夫かという不安を抱く人々もいるが、私は適任だと思う。稲盛氏が京セラ発展の支柱にした経営理念は「従業員の物心両面の幸福を追求する」というものであった。これは従業員を甘やかすことではない。従業員の自助努力をうまく引き出し、それを土台として、京セラを発展させた。それだけでなく、経営の失敗に陥った企業の再建をも引き受け、成功させている。
稲盛氏の理念は、人減らしや賃下げで荒廃が懸念される日本航空の従業員モラールを高めるのに有効だろう。サービス業である航空会社の立て直しの基本は、顧客との接点となる現場従業員によるサービスの質の向上だからである。そのカギは人々の自助努力にある。財務のつじつま合わせで会社は一時的に救えるかもしれないが、それは応急措置でしかない。会社を継続的によくするためには働く人人の知恵と協働意欲を引き出すしかない。
稲盛氏による日本航空の経営再建の基本手段となるのはアメーバ経営であろう。アメーバ経営とは、価値付加のプロセスを多数の小さな利益責任単位(アメーバ)に分担させ、それぞれが時間当たり採算をもとに、自主的な経営改善を行う仕組みである。採算とは、アメーバの売り上げから、社外ならびに社内の他のアメーバへの支払い費用を差し引いた残余であり、アメーバの付加価値である。採算を、アメーバ・メンバーの総労働時間で割ることによって、アメーバ・メンバーが時間当たりどれだけの付加価値を生んでいるかがわかる。自分たちの食いぶちが稼げているかどうか、それがどの程度かがわかる。支払い費用に賃金が含まれていないのは、メンバーの賃金が他の人にわからないようにするためであるといわれているが、もっと大切なのは、会社は従業員の物心両面の幸せを追求するという目的との整合性があるという理由である。しかも、京セラではアメーバの成績とアメーバ・メンバーの報酬を連動させるという成果主義はとられていない。アメーバは従業員相互の信頼の上に築かれているが、報酬と連動させたのでは、人々の信頼は醸成されないからである。