アメーバ経営のシステムは、京セラの本業であるファイン・セラミック事業で生み出されたものであるが、京セラの多角化事業である通信サービス、無線機、カメラ、複写機などの組み立て事業でも効果を発揮してきた、最近は、アメーバ経営のシステムを外販するというコンサルティング事業も行われている。稲盛氏とともに、日本航空に出向する森田直行氏は、この事業の責任者であった。この事業を通じてすでに多様な業種の企業にアメーバ経営が移植され、その効果が実証されている。最近では病院にも応用され、効果を発揮しているという。

稲盛式経営の神髄は人材育成にあり

稲盛氏は、アメーバ経営の目的を

1、市場に直結した部門別損益制度の確立
2、経営者意識を持つ人材の育成
3、全員参加経営の実現

に求めておられる(稲盛和夫『アメーバ経営』日本経済新聞社、31ページ)。私は、これらの目的で最も大切なのは、経営者意識を持つ人材の育成であるとみている。

アメーバ経営が人材育成という目的につながる理由は、2つあると考えている。一つは、行動と成果の因果関係のわかりやすさである。アメーバは通常小さな集団である。小さな集団であれば、誰が何をしたかがわかる。しかも、アメーバの時間当たり採算の数字は毎日現場にフィードバックされる。1週間や1月という長い期間に何をしたかを思い出すのは難しいが、今日したことなら思い出せる。そうすると、皆が何をしたときに採算が向上するかを知ることができる。

アメーバ経営が人材育成につながるもう一つの理由は、アメーバ間の社内取引が生じることとかかわっている。アメーバ経営では付加価値の創造プロセスが複数のアメーバによって担われている。そのためにアメーバ間の内部取引が起こる。伝統的な管理会計の考え方によれば内部取引は、プロフィットセンター管理の最大の障害物だと考えられてきた。しかしアメーバ経営では、この社内取引が積極的な意味を持っている。それぞれのアメーバが自己の売り上げを極大化し、費用を極小化しようとする。そのためアメーバ間の交渉は厳しいものになりがちである。この厳しい対決から、売り手のアメーバは買い手の気持ちを理解せざるをえなくなる。そこから、どうすれば高く買ってくれるかを学ぶことができる。逆に、買い手のアメーバは、どうすれば安く売ってもらえるかを学ぶことができる。こうした社内の真剣な交渉プロセスを通じ、社外の顧客の要求が社内に伝播する。