――こうした少数民族政策の失敗と、それに反発する一部のウイグル族の暴走の結果生まれたのが、私が冒頭で体験した陰惨な密告・監視社会だ。

私は日本のパスポートを持ち、曲がりなりにも警官の言葉を理解できる(中国語がわかる)ため、あの程度で済む。

しかし、田舎で暮らすウイグル族の農民は中国語が話せず、逃げ場も存在しない。言葉もろくに通じない支配者から、毎日のように恫喝的な尋問を受け続けるのは相当な屈辱だろう。しかも、腹が立って文句を言ったり怯えて「不審」な行動を取ったりすれば、よくて逮捕、運が悪ければその場で射殺なのだ。

ヤルカンドの街並み。

事実、昨年12月には、カシュガル近郊の村で女性や未成年を含む一族14人が死亡する事件が起きている。一説では、結婚式の準備で集まっていたところを「不審な集会」と密告され、警官に踏み込まれて皆殺しにされたという。花嫁の顔を覆うヴェールを警官が剥ぎ取ったことに親族が激怒し、つい手を上げたのが事件の発端だった。

また今年4月には、アクス地区でバイクに乗って信号無視をした17歳のウイグル族少年3人が警官と口論になり、やはり射殺されたと伝えられる。

いずれも中国当局は「テロリストの鎮圧」だと発表しているが、言葉通りには受け取りづらいはずだ。こうした「テロ鎮圧」政策に反発して、やがて本物のテロや騒乱も起きる。まさに負の連鎖だ。

5月26日、習近平国家主席は新疆問題を討議する会議の席上で「従来の政策は正しかった」と発言するなど、歩み寄りの姿勢を改めて拒否した。

密告・尋問・虐殺・騒乱――。国外からの目が届きにくい砂漠の果てで繰り広げられる悲劇は、今後も容易には終わりそうにない。

中国の闇は深い。

(安田峰俊=撮影)
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