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顧客志向のジレンマへの挑み方

顧客志向のジレンマは、顧客の多様性から生じる。国や地域、ライフステージや購買スタイル、等々の違いによって、顧客の嗜好や行動は多様なものとなる。こうした多様な顧客を前に、企業の経営者やマーケティング担当者は、短期的な収益性が高い顧客vs長期的な収益が見込まれる顧客への対応のバランス、すでにブランドを愛用している顧客vs新規にブランドを愛用してくれそうな顧客への対応の両立、シンプルなウェブ画面を好むA国の顧客vs情報を盛り込んだウェブ画面を好むB国の顧客への対応の補完関係、等々に頭を悩ますことになる。

そこには、すでに見てきたように2つの攻め方がある。第一は、多様な顧客の嗜好や行動に応じて、異なる商品やプロモーションを提供し、場合によってはその徹底のために、社内の担当者やプロジェクトを分けるというアプローチである。第二は、異なる顧客の嗜好や行動に共通の要素を見いだし、ひとつのキャンペーンやシステムで対応するというアプローチである。

この2つのアプローチのうち、前者は、ロジカルにプログラムを設計していくことが容易で、実現の難易度は高くない。ただしこのアプローチには、突き詰めていくと、多くのグローバル企業のウェブサイトが陥ったような、個別適応へと行き着いてしまう問題がある。

一方、後者のアプローチは、理詰めの分析だけでは実現化が難しく、クリエーティブな直感を必要とする。システム対応をものにするには、多様性を貫く共通性へのインサイトが欠かせず、このアプローチは明らかに実現の難易度が高い。とはいえ、事業が大きくなり、グローバル化していくほど、システム対応がもたらす利点は膨らんでいく。

一般に、企業が成長し、組織が大きくなるにつれて、理詰めで分析的な経営が確立されていく。しかしこの経営の合理化が、組織のクリエーティビティをやせ細らせるのであれば問題である。このような創造性軽視の組織風土のなかでは、顧客志向は安易な個別適応へと流されやすく、事業の規模拡大やグローバル化がもたらすはずの優位性を、顧客志向の実践に十分に活かせなくなってしまうことには注意が必要である。

(平良 徹=図版作成)
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