弱者救済と住民にプライドを持ってもらうこと
【塩田】この時代、基本的に政治が果たすべき役割は何だと思いますか。
【樋渡】弱者救済です。これに尽きます。強い人は勝手にやればいい。立ちたくても、どうしても立てないような人がいる。
もう一つ、地方の政治の役割は、住民にプライドを持ってもらうことです。田舎にいても何もない、というような自虐史観が蔓延している。だから、特に子どもたちは誇りを取り戻すのがすごく大事です。
それには、大人が背中を見せることです。かっこいい大人になりたいと思わせる。大人になったとき、自分たちの故郷の町づくりをしたいと思ってもらう。挑戦場は、よそではなく、ここにある、と行動や言葉でわかってもらうのが大事だと思っています。それは政治家の役割です。
【塩田】現在の日本の状態をどうとらえていますか。
【樋渡】全然悪くないと思っています。だけど、みんな、悪いと思っている。せめて実情と思いを一致させたい。もう一つ、賛否両論あると思いますが、地方でもこれだけのことができるということです。だから、できない理由よりも、できる理由を見つけて、それをやろうよ、というふうになれば、おそらく変わっていく。気持ちの持ち方をシフトさせることだと思います。
僕の場合は、それを目に見える形で早くやる。政策は商品と思っているので、それを推し進める。出身が役所というプロフェッショナルの世界だから、僕は政策のプロフェッショナルでなければと思っています。可否については、選挙のときに判断してもらう。武雄市の投票率は70%近いので、判断しやすい状況にあります。
【塩田】2011年3月の東日本大震災の直後、進んで被災地支援に乗り出しましたね。
【樋渡】被災の映像を見ていて、原子力発電所事故の被害で、おそらく東北に住めなくなると思った。被災地支援をやりたいと思い、もし自分が被災者だったら何を望むのかと考えました。衣食住だろうと思ったが、衣と食は何とかなると踏んでいた。だったら、九州にお越しいただくとか、そんなことを本気で考えた。
今から見ると、荒唐無稽に思えるかもしれませんが、佐賀県の古川康知事と一緒に、県内に3万人から10万人の人たちの住まいを用意しようとぶち上げました。震災発生から2週間くらい経ったときです。こんなに離れた九州の田舎からそういう支援をすると、必ずもっと近いところが「やろうよ」というふうになる。だから、梃子の原理を利かせることができると思いました。
【塩田】三重県松阪市の山中光茂市長と一緒に、被災地支援のための「ハートタウンミッション」を始めましたね。
【樋渡】山中さんが僕を引きずり込んだんです。とにかく僕ができることで最大限のことをやろうと思った。やるべきことは、九州の田舎から物資を届けることじゃない。要するに行政を立て直さないと話にならない。キーになる人間を送るべきだと思いました。