議論してからやるのではなく、やってから議論する

【塩田】「これが樋渡流」という行政の基本的なスタイルは何ですか。

【樋渡】僕は、これぞ!という政策に関しては、トップダウンです。議論してからやるというのではなく、やってから議論しようよ、というスタイル。なぜかといえば、今までのやり方でやっていたから、日本は駄目になったと思っているからです。要するに利害調整ばかりやる。

武雄市で市民病院を民間に委譲しようとしたとき、リコールを食らった。だけど、あのときもいろいろな人たちの意見を聞いていたら、多分できなかったと思う。市立図書館の改革のときもそうです。10ヵ月でバンとやった。その代わりに、やってから議論しようよ、と。僕は後から修正に次ぐ修正で、というタイプです。判断の源は直感です。

【塩田】直感を支えているものは何ですか。

【樋渡】僕は自分が行きたい病院をつくる。自分で行きたい図書館をつくる。そして、政策は商品だと思っている。市民の皆さんがそれをどう評価するかということです。極端に言えば、市民はお客さんです。また、スピードは最大の付加価値だと思っています。

【塩田】地方自治を管轄とする総務省の出身ですが、地方自治体の長として、現在の地方自治の現状をどう見ていますか。

【樋渡】全国の首長はほとんどが言い訳ばかりです。地方分権は進んでいるんですよ。2000年に地方分権一括法が施行されましたが、あの当時と今とでは大違い。実はこれ以上、地方分権にしなくてもいいくらいに、権限が地方に来ています。

それなのに、全国市長会とか首長会議で話をすると、補助金が足りないとか、交付金が足りないと言う。今、なぎなたが必要なのに、バズーカ砲をくれと言っているようなものです。大多数の自治体では、特区なんかいらないんです。特区がなくても、やろうと思えばできるから。だけど、それを言い訳で使う人たちがやたら多い。言い訳がまかり通る。地方が浮上しないのは、そこだと思います。

【塩田】総務省と地方自治体の関係は。

【樋渡】まったく地方自治体のほうが強い。今、僕らは攻撃できます。国がおかしなことを言ったら、ツイッターとかフェイスブックで書きまくりますから。対等どころか、こちらが上です。その状況を考えると、今は非常に仕事がやりやすい。だけど、多くの首長たちは補助金や交付金が足りないと言う。そうすると、市民はみんな、制度が悪いと思う。それが許せない。

【塩田】市長になって、逆に霞が関の官僚機構の現状はどう映りますか。

【樋渡】かわいそうですね。のびのびしていない。同期会でも、すぐ悪口ばかり言う。あの政党は駄目とか、マスコミが駄目とか。こちらは「おまえが駄目だろう」と言いそうになる。