震災への備えの進化

そして、次の巨大地震に備えて、すでに坂は動き出している。たとえば途上国の雇用確保、スラムの解消と、震災時の仮設住宅供給をリンクさせた取組みが挙げられる。首都直下型地震、東海―東南海―南海の三連動地震のリスクが高まっているなか、坂は「次の一手」を次のように語る。

「今度、震災が起きたら、もう日本のプレハブメーカーでは対応できないんです。企業として、仮設用の、ふだん使う用途が少ないものをつくる工場を残しておくのは難しい。供給不足は明らかです。何か特別の供給方法を考えなきゃいけない。それに仮設の住み心地は、日本政府の基準では被災者に無理を強いるばかりです。仮設住宅は、豪華すぎても、貧しすぎてもいけません。住民の経済レベルや気候、宗教などを加味してちょうどいいものが求められる。

そこで、大和リースと一緒に「FRPサンドイッチパネル素材」を構造としたシステムを開発しました。その工場を、まずはフィリピンにつくる準備をしています。途上国に工場を建てて、仕事を生み出しつつ、スラムを少しずつ改善する住宅を供給したい。特殊な技術がなくてもできる仕事で、ローコストで住宅をつくれます。で、いざ災害が発生したら、仮設として輸出する。日本の仮設住宅のレベルを向上させるには、すごくフレキシブルなシステムなんです」

「BOP(Base of the Pyramid)」と災害救援を組み合わせたシステムのようだ。

東日本大震災の発生後、坂は学生と一緒に避難所の体育館に「間仕切り」をつくるプロジェクトも進めた。自治体に経済的負担をかけず、被災者のプライバシーを守る「一石二鳥」の仕組みだったのだが、避難所を管理する行政側の対応はさまざまだった。「前例が無い」と拒絶する職員もいれば、首長の鶴の一声で採り入れて被災者に喜ばれたケースもある。「避難所の間仕切りは必須アイテム」と坂は言う。東京の世田谷区や京都市が坂建築設計事務所と防災協定を結び、災害時の間仕切りの導入を進めようとしている。

グローバルに躍動する坂茂。ビジョンとスキルと活力で、独自の道を切り拓いてきたが、ここに至るまでには厳しい試練も経験している。なかでも2010年に開館した「ポンピドゥー・センター・メス」のプロジェクトでの苦労は筆舌に尽くし難いものだった。