建築は誰のものか。東京都港区に自力でビルを建てた建築家の岡啓輔さんは「施主でも設計士でも所有者でもない」という。どういうことか。ライターの山川徹さんが聞いた――。(3回目/全3回)
建築家の岡啓輔さん
画像提供=蟻鱒鳶ル保存会
建築家の岡啓輔さん

「鉄筋コンクリートビルの寿命は35年」への違和感

――岡さんが建てた蟻鱒鳶(アリマストンビ)ルの耐久年数は200年以上と聞きます。なぜそんなに長く持つ建築物を作ろうと思ったのでしょうか。

いま日本のコンクリート建築の平均寿命は35年です。それに合わせると、着工から19年が建つ蟻鱒鳶ルの地下部分はすでに寿命の半分以上は終わっていることになります。

35年、もしくは鉄筋コンクリート建築の法定耐用年数である50年のスパンで、つくって壊して、また新たにつくる。それが、経済効率を優先した日本の建築のサイクルなのでしょう。建築にかかわる人たちもずっとそう教わってきたから、誰も問題意識を持っていない。

それがぼくには疑問でした。コンクリートの練り方次第ではもっと長持ちするビルをつくれる。それなのに、なんで50年で手打ちにしているんだ。何かがおかしい、と。

先進国のなかでも、日本はとくに建築物の寿命が短いんです。おそらく200年、300年も持つ建築物をつくりはじめたら、再開発や道路の拡張工事もやりにくくなって、経済的にも政治的にも困った状況になってしまうのでしょう。

ただし、それはあくまでも政治や経済の都合です。ぼくのような庶民が政治や経済の都合に合わせる必要なんてありません。せっかくつくるなら35年でダメになる家よりも、100年、200年住めた方がいいと考える人だってたくさんいるはずです。

見る者を圧倒する蟻鱒鳶ル。すごいのは外観だけではない。
撮影=プレジデントオンライン編集部撮影
見る者を圧倒する蟻鱒鳶ル。すごいのは外観だけではない。

蟻鱒鳶ルとは巨大な石である

――ビルの耐久年数はコンクリートの強度で決まるのですか?

そうです。一般的にコンクリートはセメントと水と砂と砂利を混ぜてつくります。強度の決め手となるのは、水とセメントの比率。水分が少ない方が硬く、そして強くなります。一般的な建築現場では、水セメント比は60パーセント程度で水分量が多い。軟らかいコンクリートのほうが、扱い易い上にコストも安いためです。

蟻鱒鳶ルでは、水セメント比は37%です。セメントの成分のほとんどが石灰石。このビルの砂と砂利は100%石灰石なんです。つまり蟻鱒鳶ルはコンクリート造といってもほとんど石灰石でできています。コンクリートが固まれば硬い石と同じになる。つまり、蟻鱒鳶ルとは大きな石なのです。