自分をひらき、信頼し合う

相互作用や関係性を重視した採用のあり方とは、どのようなものなのでしょうか。それを、若者だけでなく、企業の経営者や採用担当者も交えて一緒に模索していこうとするのが、冒頭に紹介した「就活アウトロー採用」です。就活をやめてしまった人、あきらめてしまった人、最初からしなかった人など、新卒採用における“アウトロー”な少数派の若者たちを世間ではひとくくりにして「怠けている」とか「遅れている」と言ったりしているようですが、彼らは一人ひとりいろいろな葛藤や悩みを抱えながら試行錯誤しています。彼らはなぜはみ出すことを選んだのか、就活をやめたのか、もしくは就職しなかったのか。彼らの中にこそ、人と組織の関係性を見直す重要なヒントが詰まっているのだと思います。

多くの採用支援サービスでは、求職者が内定を目指すためのレクチャーや研修を行うようですが、僕は、「先生が教える」という類のことは一切やめました。その代わり、参加者同士で、葛藤や違和感、疑問などについて時間をかけてグダグダと意見交換を行い、それぞれがなんとなく共感できたり理解し合えたりできるポイントを探ってもらいます。

昨年の就活アウトロー採用でのセッションの様子。

ここで最も大事にしているのは、同じ境遇にある当事者たち同士でサポートし合える、「相互支援」の場を提供することです。彼らは世間ではまだまだ少数派なので、学校のクラスやゼミ、サークルなどそれぞれのコミュニティでは、なかなかに孤独な思いをしています。そんな点在している少数派の彼らが集まることで、それまであまり口にできず一人で抱え込んでいた悩みや葛藤が徐々に解放されます。自分たちのことを素直に開示できるようになれば、ゆるやかなつながりと信頼が生まれます。彼らが本当に必要とするサポートやアドバイスは何なのか? 立派な先生や講師を呼んだところで、それはちっとも見えてきません。的外れなレクチャーなど、むしろ集まったみんなに失礼です。当事者同士が「自分をひらく」ことが、何よりも大切なのです。

その後は、企業の経営者や採用担当者も同じ場に入ってもらい、それぞれの肩書は明かさず、参加者と一緒にまたしてもグダグダ話し合ってもらいます。昨年は、「恥」「欲」「死」など、それを話し合ってどうなる? といった抽象的なテーマをたくさん設定しました。この出口のない議論には専門性も正解もないので、みんななんとなく自然体を取り戻します。そして、一人ひとりのキャラクターや世界観が徐々に現れてきます。お互いが対等な立場で、それぞれの理屈や感情、価値観を交錯させ、十分にフィードバックし合う。「理解」や「共感」のポイントを感じとりながら、お互いが関係を深めていけることを大切にしています。そこに信頼が生まれれば、場合によっては内定・就職となっていきます。