女性社員による「リサーチ・グループ」とは
さっそく1つ目のポイントをご紹介しましょう。なぜこの物語は世界的に受け入れられているのか?
物語の軸となるのは「姉妹」です。私たちはこの物語に真実味を持たせるために調査団(リサーチ・グループ)をつくり上げました。といっても、皆さんが思い浮かべるような堅苦しいものではありません。
ディズニー社には、数百人単位の女性社員がいて、その多くには姉妹がいる。姉妹というのは、別に年齢も関係なければ人種も社会的背景も関係ない。どこにでもある人間関係です。そこでジェン(ジェニファー・リー監督)とクリス(クリス・バック監督)が作品をつくり上げるうえで、姉妹を持つ女性社員たちから様々な経験を聞き出し、姉妹の間に存在する相剋、冷たさ、喪失、和解、そういった諸々の感情を物語に反映していったのです。
この話を日本ですると、時々「年齢の壁をどう取り払うのか?」と聞かれます。正直、年齢の問題など考えたことすらありませんでした。大学新卒の人にも、勤続30年の人にも姉妹がいるのが普通で、どちらも物語にとって貴重な存在です。会議室で堅苦しく話すようなものではなく、ちょっとした立ち話からヒントを取り出していくわけです。
私自身がそういった境地に至ることができたのは、学生時代の経験が大きかったと思います。大学では人類学を、そして修士では映画学を専攻しました。もし私が大学からもう一度人生をやり直すとすれば、全く同じ道を選びます。
人類学を通じ、私は異なるタイプの人々の感情やライフスタイルに配慮し、感情移入することを学びました。そして、人類学の研究においては、様々な事象や人々に対して好奇心を持つことが大切です。好奇心を持つからこそ相手に質問を投げかけるわけですし、相手の立場を尊重することができる。異なる集団・文化・社会では異なる考え方があり、決してものの見方が一つではない。この点が、現在ディズニーの仕事で大きく役立っていることは間違いありません。
そして映画学を通じ、私は映画制作の複雑な仕組みを学びました。1本の作品をつくり上げるうえで、どのようにビジュアルで物語を表現して、そこにどのようなツールがあり、テクノロジーが活用されるか。こういったことを実地で作品をつくり、肌で実感するわけです。
だからこそ、私のように経営側にいても制作側の苦労がわかるという強みがあるのではないでしょうか。