吸う、吐く、吸う、吐く。リズムが合わないと、客席は凍ります。しかしそのタイミングさえ合えば、私が投げたものをお客さんが受け止め、見えないキャッチボールが始まるのです。すると会場の2階、3階まで、うわーっと波打つように笑ってくれます。

呼吸が合わないときは、逃げる、謝る、あきらめる。選択肢がいくつもある中で、私は扇子を持って、講談のように1回パーンと叩きます。すると犬でも猫でも動きが止まり、呼吸が揃い、再びスタートラインに立つことができるのです。

ビジネスマンの皆様がいきなり会社で机を叩くと辞表でも出すのかと誤解されますから、叩くのは自分の膝にしてください。

話ががウケないのもつらい体験ですが、話を忘れるのもまた地獄です。一所懸命、事前に準備して何度も反芻し、いざとなったら舞い上がって頭の中が真っ白。

「じゃあ1曲歌います」と切り替えられるのはまだいいほうで、大体の人はその場に立ち尽くすのみです。

ここで肝に銘じていただきたい。人前で喋るのは、100%はうまくいかないということを。失敗したっていいんです。恥はかけばかくだけ、上に上がれます。

われわれ喋りのプロだって、これを言おうと思って舞台に上がっても、話を忘れたり飛ばしたりすることは、少なからずあるんです。完璧にはいかないと思えば、少しはリラックスもします。「あれも言わなくちゃ、これも言わなくちゃ」と気負ってしまえば、眉間に皺が寄り、体はどんどん固くなる。これでは笑える話も笑えません。

人前に立ったら、あとはただ堂々とするだけ。演説のうまい人は、「俺の話を聞け」と言わんばかりに胸を張り、肩が前に出ています。肩で喋っているのです。その姿勢だと声も出るし、余裕を感じて思わず耳を傾けてしまう。

よく観察してください、アメリカのオバマ大統領を。そういう姿勢で喋っていますから。それに比べて某指導者の某息子。猫背なので「若くて余裕がないんだな」と思われてしまいます。私は悪口を言っているんじゃありません。ただ批判しているだけです。

そしてニコニコと微笑を湛えながら、人前に立つ。笑うことは「あなたに敵意はありません」と人を一番安心させる、最高のメッセージです。