ベッドの上で生まれた「孫の二乗兵法」

それでも、数カ月たつと気持ちを切り替えられるようになったのです。時間を持て余せるのは贅沢な経験。だから、もし病気が治ったら……と、ポジティブに考えるようにしました。

良医がいることを自ら調べ、虎の門病院に転院した。(写真はイメージ/PIXTA=写真)

とりわけベッド上での時間を有効活用しようと実践したのは読書です。「ランチェスターの法則」などの経営書や、歴史書、コンピュータ関連書……。あらゆる種類の3000~4000冊の本を買い込んで貪り読みました。なかには、歴史マンガのようなものもありましたが、みなそれなりにおもしろく、いまの僕の血となり肉となっています。『竜馬がゆく』を再読して、改めて感銘を受け、「あと5年もあれば、相当大きなことができるのではないか」と感じました。「たかが自分の命くらいでくよくよしてどないするんや。もっと大きく構えにゃいかん」と思うきっかけにもなりました。

遠隔操作で部下をマネジメントする方法を覚えたり、『孫子の兵法』の言葉に僕の言葉を加え、25文字から成る文字盤に経営指針を表した「孫の二乗兵法」を編み出したのもベッドの上です。約3年の入退院を繰り返した闘病生活は、仕事の価値観の原点を考え、経営者としての自分を磨く貴重な時間だったと思っています。

プロトクライシス代表取締役 前田三喜夫氏が解説

前田三喜夫氏

普通の人ならAを選ぶのが当然です。しかし、創業直後に経営者が重病で長期入院と知られたら、金融機関は融資してくれなくなるかもしれないし、従業員がついてくるかもわからない。

極秘入院されたのは妥当な判断だったと思います。ただ、病気を押して病院を抜け出せば外出先で倒れて、すべてが水泡に帰すリスクがあります。危機管理の観点から見れば、すべて遠隔操作でマネジメントすることが最善であったと思います。

●正解【A】――入院中の読書が血肉となる

※本記事は2010年9月29日に開催された「ソフトバンクアカデミア」での孫正義氏の特別講演をもとに構成されております。設問文等で一部補筆・改変したものがあります。

(大塚常好、小澤啓司、原 英次郎、宮内 健、村上 敬=構成 小倉和徳、山口典利=撮影 PIXTA=写真)
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