でも僕は、ミドルマンというポジションを奪取するため必死に熱意を伝えました。当然こちらはマージンを取るわけですから、先方はそれまで直接売っていたときより安く卸さなければなりません。たくさん売れなければ損をします。

ミドルマンは、たくさんの品揃えとたくさんの売り先があることが生命線。流通ルートでいえば、川上と川下の両方が必要です。まさにニワトリが先かタマゴが先かといった状況にありました。残念ながら仕事を始めたばかりの僕にはそのとき、両方ともない。本当に無力でしたが、心の中でこう考えていました。

「ナンバーワンのメーカーであるハドソンから独占販売権を取れば、販売店網は広げられるはずだ」

人気商品を連発するメーカーの独占販売権さえ手にすれば、多くの客に売りたい小売店側は僕たちから仕入れなければなりません。つまり、僕たちは売り先の口座を一気に広げることができるのです(実際、上新電機とも独占契約)。

売り先の口座を広げられる。このことが経営安定化に大きく役立つことは子供にもわかります。1カ月の人件費やオフィスの家賃などの固定費、これを仮に500万円だとして、起業から10カ月の間にほとんど収入がなければ、5000万円が消えてなくなる。一方、5000万円払ってミドルマンのポジションを確立できれば、取引先は増え続け、一定の収入を見込める。

厳しい締め切りも、守れば信頼感を生む

ハドソンとの交渉で、僕がAを選んだのにはもう一つ理由があります。入金した5000万円は払ったら戻ってこない金ではなく、メーカーから僕たちが仕入れるための前払い金という位置づけにしてもらったのです。

したがって、ギャンブルに負けて消えてしまうお金ではない。どっちみち仕入れるためには支払う。そう考えれば、このお金は決して損をしない、生きたお金になる。1週間後という厳しい締め切り期限も、きちんと守れば信頼感を得られる。

集めるのは心底骨が折れましたが、あの5000万円は、単なる現金ではなくソフトバンクに独占権プラスαをもたらしてくれたのです。