情熱では誰にも負けません。しかし、会社を立ち上げたばかりの僕にとって、5000万円もの現金を1週間で調達するのは、実現不可能なことに思えました。

最終的には、知り合いをかけずり回り、頭を下げ続け必死にかき集めて無事期限までに振り込みましたが、あのときは本当に大変でした。

それでも、アメリカから帰国後、「50年間飽きずに全知全能を注げる仕事」として、40種の事業の中から僕が選んだのがパソコン関連のこの仕事。

「一生をかけるにふさわしい」と思えたからこそ、この資金集めの難題もクリアできたのだと思います。もしクリアできなかったら、たぶん今の僕、そしてソフトバンクは存在しなかったでしょう。

無力だった僕が心の中で考えていたこと

兄とともにハドソンを創業した工藤浩氏。孫の熱意にほだされ、独占契約締結を決断した。孫は今も「恩人」と呼ぶ。

さて、皆さんが起業直後、会社の資本金や自分の持つお金よりはるかに多い金額を工面してまで「最初の一つ目の大きな取引先」を確保すべきか。

考え方としては2つ。まず、僕と同じようにお金を何とか調達して独占契約締結を達成し、安定した売り上げを確保しようとするか。あるいは、これから多くの会社と取引しなければならないのだから、1社にこだわらず最初はお金を温存して、その他のことに使うか。

規模の大小に関係なく、経営者ならこうした選択を迫られる瞬間が必ずやってきます。どの設問も同じですが、僕はAかB、どちらが正しいと言いたいわけではありません。また、僕と同じ考えでなければ正解だと言いたいわけでもない。正しい選択肢は、ケース・バイ・ケースでしょう。

あのとき僕は、こう考えた。

パソコンソフト卸売業としては、一にも二にも、卸してくれる優れたメーカーを探さないとビジネスが成り立たない、と。そして同時に、仕入れた商品を卸す販売店を僕たちがたくさん持っていないと、メーカーにとっても卸す意味がない。そもそもハドソンは独自の販売ルートがあったので、わざわざ僕たちのようなミドルマン(仲買人)を通さず、直接取引を継続できた。