孫正義氏がこれまでに経験したタフな場面をケーススタディの形で完全再現。
あなたは正しい判断を下せるだろうか。

Q. 新規ネット事業が既存事業と顧客を奪い合い

1982年に始めた雑誌の出版事業。90年代半ばには23誌も発行するまでに拡大したが、世の中には急速にパソコン&ネットが普及。そこで選択。A案は、下手にトレンドを追うより、手堅い既存の仕事で利益確保。B案は、新事業が失敗したら共倒れになる危険性をはらむ。
  【A】既存事業を強化する【B】既存事業は縮小して新規事業へ(正答率90%)
孫正義氏

新しくスタートしようとする事業が、自社の既存事業のマーケットと重なり、カニバったらどうするか。「カニバリズム=共食い」。社内で顧客を奪い合って、収益を上げ柱になっている既存の事業を否定してしまうことになります。

それでも参入すべきか。それともカニバるのを避けて、既存の事業を強化していこうとするかの二者択一です。

例を挙げて考えましょう。みなさんが新聞社を経営していたとする。宅配なら1カ月およそ4000円の紙の新聞。日本の津々浦々まで浸透している、伝統的なメディアのビジネスモデルです。でもネット時代の到来で部数は低迷中です。購読者の減少に比例し広告収入も落ち込んでいます。そこでネット新聞を出す話が持ち上がる。しかも無償で。本業の新聞に掲載されているのとほぼ同じ内容の記事を読むことができるので、さらに読者が減る可能性もある。紙の新聞とネット新聞は、真っ正面から激突するわけです。

ソフトバンクにも社内の新旧対決が勃発し、どちらを優先すべきか判断に苦しんだ時期がありました。それは紙の雑誌vsネット雑誌という構図です。

一時は赤字続きで全誌廃刊の危機にあったソフトバンクの雑誌事業ですが、その後盛り返して、発行点数が23誌にまで急成長。創業時に始めたソフト流通部門よりも高収益になったのです。出版事業部門の絶頂期の頃には、利益の絶対額で会社全体の7割を占めるまでになりました。

ただ90年代に入り、本格的なインターネット時代がやってくると、ネット上のメディアをつくる必要が出てきた。ソフトバンクグループでは99年からIT系ニュースサイト(現在は「ITmedia」)を運営しています。今では、IT関連を中心とした各種報道を展開しているほか、外部のニュースサイトへのニュース供給も行っています。