同社がこだわるのは、あくまで「社員全員の底上げ」であり、全員野球を貫くことが会社の成長につながるとの確信がある。田中部長が社内研修の冒頭でよく口にするのは「一人ひとりががんばっているからこそ会社は成り立っている。それを忘れずに仕事をしてほしい」というメッセージだ。

「私は一人ひとりが最大限の力を発揮することが会社のためになると思っています。あまり変にメリハリをつけようとするよりも、ある意味では少しぬるま湯的といわれるかもしれないが、やはり生活があっての仕事であり、家族や職場の人間関係、何より経済的基盤がある程度しっかりしているからこそ会社で活躍できるんじゃないかと思っています」(田中部長)

いたずらに給与や役職にメリハリをつけて処遇するよりは社員一人ひとりに生活基盤の安定を付与し、そのうえで社員が力を発揮することが会社の長期的成長をもたらすということだ。

業績至上主義の企業では高い処遇を受ける優秀な社員と同時に低い処遇に甘んじざるをえないバッドパフォーマーも発生する。バッドパフォーマーの存在は組織活力の低下をもたらすために、必然的に会社からの退出を促すことになる。いうまでもなくNTTドコモは対極にあり、社員の底上げを常に図りながら長期にわたって会社に貢献してもらう長期雇用を標榜する。

「少なくとも当社は終身雇用を前提としており、社員が長期にわたって活躍してくれる仕組みはつくっています。基本的に社会に反するようなことをしない限りクビにするようなことはありません」(田中部長)

量的拡大を収益源にしてきた携帯電話の加入件数はすでに1億件を超え、今、国内市場は飽和状態にあるといってもいい。従来のビジネスモデルは大きな転換点を迎え、携帯各社は次なる成長戦略の強化に乗り出している。厳しい競争環境の中で、“全員野球”の人事哲学を武器にいかに社員の活力を引き出し、飛躍していくことができるのか、今後がじつに興味深い。