私はたびたびこうした無茶をしてきましたが、そんなときでも自分の都合だけでなく、相手を尊重しながら無茶をいうことを心掛けました。そうすると東急の城下町に西武百貨店が出店するという無理が通ったりするわけです(笑)。

手紙を書く場合も同じです。何を頼むにしても、相手を尊重する気持ちを忘れない。これは人とコミュニケーションするうえで欠いてはいけないことの一つです。

文章そのものについては必ずしも流暢である必要はありません。むしろ稚拙でもいいくらい。文章で人に動いてもらうためには、こちらの思いを伝えることが何より大切なので、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしつつ、たどたどしく書いたほうが伝わりやすい。たどたどしい文章のほうが本気だという雰囲気が出ることもある。語弊を恐れずにいえば、文章が下手な人のほうがいい手紙を書けるのかもしれません。

そもそもこちらの用件は、偉い人からすると取るに足らない場合がほとんどです。先方は用件の中身より書き手の人間性を見ているのですから、下手に飾った文章を書く必要はありません。

自分を卑下して媚を売る文章もよくないでしょう。極端にへりくだった文章は偉い人から見るとつまらない。そういう文章は読み飽きているからです。ぶっきらぼうにならない程度に、自分を率直に出したほうがいいでしょう。

私はビジネスと文芸で文章を書き分けることはしませんでした。あえて違いを一つあげるなら、視線の先に何があるかでしょうか。

1970年代半ばから80年代前半にかけて西武百貨店の広告は世間の関心を引いていたようです。私は宣伝部門を直接見ていましたが自分にコピーを書く能力はありません。広告を支えていたのは、アートディレクターの田中一光さんやコピーライターの糸井重里さんなどの若き才能たちでした。