たとえば、頼みごとをするとき、私は断られることを恐れず手紙を書いていました。断られることにびくついていると、それが文章に表れて卑屈な印象を与えてしまう。それでは愛嬌が生まれません。「断られたら、またチャレンジすればいい」というくらい大胆なほうが偉い人はかわいがってくれる。断られても挫けずに何度も頼めば、どんな人でも5回目くらいには断ることが難儀になるもの。愚直さが相手の心を打つのです。

また、相手を尊重することも大切です。率直にものを言うことと傍若無人にふるまうことは違います。いくら懐が深い相手でも、それに甘えてはいけない。相手を無理に「尊敬」する必要はありませんが「尊重」する気持ちを持ってアプローチすべきです。

渋谷に西武百貨店をつくったころの話です。当時、渋谷は東急の城下町で、東急グループを率いる五島昇さんが絶大な影響力を持っていました。だからどの百貨店も渋谷に進出しなかったのですが、空く予定の土地を使わないかと話をいただき、私は無謀にも渋谷への出店を計画することにしました。

渋谷に店を出すためには昇さんの許可がどうしても必要です。しかし正攻法では反対されるに決まっている。そこで私は昇さんの後ろ盾となっていた財界人にアプローチしようと考えました。石坂泰三さん(第2代経団連会長)、小林中さん(初代日本開発銀行総裁)、永野重雄さん(富士製鐵元社長)、櫻田武さん(日清紡績元社長)の4人。当時、財界総理や財界四天王と呼ばれていた大物たちです。

こういうときは自分の都合だけを押し付けてはいけない。私は「西武の進出で渋谷がにぎわい、東急の発展にもつながる」と東急の利益も尊重しながら訴えました。こちらの動きを察知した昇さんが慌てて4人のもとに駆けつけたそうですが、ある人の場合は私のほうが30分ほど早く回っていたりして、かろうじてみなさんを説得できた。まさに間一髪です。

昇さんは心の広い人で、翌日私を呼び出して「君の言うとおりだ」と出店を認めてくださいました。それから昇さんが亡くなるまで、私はずっと兄事していました。