読者の皆さんは自治体が発行するハザードマップをご覧になったことがあるだろうか。国土地理院では、日本の自治体が発行するハザードマップをポータルサイトで公表している(http://disapotal.gsi.go.jp/)。このサイトによると、洪水ハザードマップが1173の自治体、内水が147、高潮が101、津波が357、土砂災害が702、火山が78と全国の自治体で発行されている。

東京都板橋区でも荒川や中小河川が氾濫した際の「洪水ハザードマップ」を05年に発行しており、地図上に一目でどこまで浸水するかがわかるように色分けされ、視覚的に訴えられている。しかし、このマップでは集中豪雨による内水氾濫まで想定されておらず、2010年の「ゲリラ豪雨」による被害には役立たなかったのだ。

図を拡大
東日本大震災で地震学は何の役にも立たなかった!

東日本大震災により津波被害を受けた自治体でも「津波ハザードマップ」が公表されている。これらのマップは、土地の高低や河川への遡及を考慮して、地図上にどこまで津波がくるかを線引きしたものであり、津波到達予想地域の住民には大きなインパクトを与えるものである。しかし「洪水ハザードマップ」で津波がこないとされた地域の住民は、避難する意識が薄らいでしまった可能性がある。

防災科学技術研究所客員研究員の水谷武司氏は語る。

「ハザードマップは地域の危険性を示すものではありません。ここで津波が止まる、洪水がここまでくるというものではないのです。これは仮定に基づいた情報であり、計算の条件が変われば結果はまったく違うわけです。ハザードマップでは安全と示されている『甘い想定』を信じて、ああここまで逃げればいいんだ、と10メートルの所に行って安心したら命取りです。

東日本大震災では『想定外』のことがたくさん起きました。ハザードマップや『地震学』といったものが、防災にとってまったく役に立たないばかりか、それを信じることがかえって危険だということが改めて示されたのです」

(AFLO=写真)

そもそもハザードマップは、行政が防災計画の予算を配分する指標にするものにすぎない。都内各自治体が作成している「地域防災計画」も、東京都が想定している「震源が東京湾北部、マグニチュード7.3。震源の深さ約30から50キロ。冬の午後6時、風速15メートル」(平成18年の都被害想定報告書)などから仮定して対策が立てられている。しかし、それがあくまでも一定の条件下での目安にすぎないことを、私たちは自覚しなければならない。

今後、より安全な住まいを探す際には、もう一度防災についての知識を問い直す必要がある。

水谷武司
1938年、名古屋市生まれ。60年京都大学経済学部卒業。66年東京都立大学理学部地理学科卒業。国立防災科学技術センター災害研究室長、千葉大学理学部教授を経て、現在、防災科学技術研究所客員研究員。著書に『自然災害と防災の科学』など。
(撮影=奥谷 仁 写真=AFLO)
関連記事
頻発する豪雨。「避難勧告」は役に立つか
わが家の耐震工事、最低いくらかかるのか?
大地震に備え本当にしておくべきこと
わが家の震災対策「住み替え」は、ここにご用心!
首都地震「想定死者1万人超」が現実離れしている理由