前述のように、国内5チャンネルの販売体制はマツダを経営危機へと導いた。しかし、VWよりも早く、マツダはいくつかの部品をユニットとして組み立てるモジュール生産に、20年以上前から着手していたのだ。多品種少量生産に対応して、5チャンネルに車種を高効率で供給するためだった。
その生産方式を実現させたのが、「課長クラス、部長クラス、役員レベルといった横のつながりでした。階層ごとに一体となっていたのです。よくある縦割りのピラミッド型の会社なら、とてもじゃないができなかった」と小飼。“打倒・トヨタ”を目論んだ作戦は失敗したが、新しい取り組みの経験は目に見えない“資産”を残していたのだ。マツダ反骨の原点であるロータリーエンジンもまた、まだ終わってはいない。昨年末に同社は発電機を搭載して走行距離を延ばしたEVの試作車を公開したが、発電装置としてロータリーエンジンを使っているのだ。小型化が容易なこと、高い静粛性といった特性を生かし、回転運動により高効率にエネルギーをつくり出すロータリーは、動力とは別の発電という新たな役割を見出したのである。
スカイアクティブ技術の到達度について人見は、「まだ半分程度。伸び代は大きい」と笑う。そのうえで「EVは、決して環境に優しい車ではありません。電気をつくるのに石炭を大量に燃やしているから。また、各国が排気量の大きさで車の税金を決めるのもおかしい。結果(車の燃費性能)で決めていただきたい」と、訴えている。
これから、低燃費な内燃機関が求められるのは間違いない。世界の自動車市場は現在よりも25%増えて、17年から20年には1億台を超えるとみられている。増加分の大半は新興国で占められるが、必要なのはガソリン車かディーゼル車だ。日本で人気のHVは、エンジンに加えモーター、電池が載るため、機構は複雑なうえどうしても値段が高くなる。また、エンジンを積まないで電気だけで走行するのは、EVと燃料電池車(FCV)だけ。この2つが、1億台のうち仮に10%を占めても、9000万台にはエンジンが載る。「アクセラ」のHVにしても、スカイアクティブGの搭載により、燃費性能はよくなっている。
ガソリンエンジンの場合、燃焼で得られるエネルギーのうち70%以上は動力としてタイヤに伝わる前に、主に熱として捨てられている。「だからこそ、内燃機関の改善の余地は大きい」(人見)のだ。