ただし、住宅金融支援機構などの公的金融機関には債権譲渡、債務免除の考え方がなく、何十年かけてもいいから返済せよといってくる。この場合は個人再生手続などで解決をめざす。自己破産をすれば家を失うことになり、住む家がなくなるという人がいるが、必ずしもそうとは限らない。低家賃の家もあるし、資産を手放せば生活保護も受けられる。持ち家を失ってホームレスになった人、食えなくなった人を私は知らない。

つい先日も、住宅ローンの返済を苦に自殺した50代の方のご遺族が相談にみえた。銀行の住宅ローンには死亡時にローン残額分の保険金がおりる団体信用生命保険が付いており、その方も保険で片付けるしかないと思い詰めたという。自殺で保険金がおりる団体信用生命保険の仕組みは疑問だ。家は暮らしの道具にすぎず、家のために死ぬなど本末転倒である。

大切なのは貨幣で表せる「資産」ではなく、命、家族、友人、健康など、金に代えられない「財産」だ。家に振り回されると、本当に大事なものを失いかねない。

住宅ローンの返済の遅れを恐れる必要はない。延滞してもしばらくは電話と督促状がくるだけで、競売にかけられるまでには少なくとも半年かかる。銀行にとっては、費用も手間もかかる競売より、少しずつでも返済してもらったり、任意売却するほうがいいので、相談には積極的に応じてくれる。

ほかにも方法はあり、ネットでも簡単に情報収集ができる。借入先、法律家、不動産業者など、相談先もたくさんある。情報を入手せず、1人で悩むと極端な選択をしてしまいがちなので、そうなる前に大まかな知識を持ち、もしものときには家族に助けを求めよう。選択肢はいくらでもあるということをぜひ覚えておいてほしい。

事業再生コンサルタント 
吉田猫次郎

1968年生まれ。旧財閥系商社勤務を経て98年退職、倒産寸前の家業を再建。著書・講演多数。
(構成=高橋晴美 撮影=都築雅人)
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