借金は大変身近な問題である。広義にいえば住宅ローンもクレジットカードも借金であり、借金とまったく縁のない社会人はまずいない。にもかかわらず、わが国では借金の話題はタブー視されがちで、なかなか正しい知識を身につけられない。それが悲劇を生んでいる。わが国の自殺者は11年連続で年間3万人を超え、人口10万人に占める自殺率は先進国中トップ。その3分の1以上が借金苦によるものという。

一方、わが国は法治国家であり、その法律の頂点である日本国憲法では、基本的人権や幸福追求権などが保障されている。たとえビジネスに失敗して莫大な借金を抱えても、必ず救済措置がある。しかるべきペナルティを受ければそれで済むはず。なのに、なぜ借金で命を落とす必要があるのか?

借金の問題は100%解決できるものである。かくいう私も、10年ほど前に、倒産危機や借金苦で考えられる最悪の経験はほぼすべて体験してきた。だけど今は完全に社会復帰して、五体満足で笑って暮らしている。

借金の問題を解決するには、「知識」を身につけることもさることながら、「意識」の改革も必要だ。われわれは「借金=悪」「借金=怖いもの」と刷り込まれているからだ。この凝り固まった価値観をいくらかでも軌道修正しなければ、肝心の「知識」の吸収まで到達できない。

さて、今回紹介する3冊の本は、借金・悪徳商法に立ち向かうのにオススメの本である。ここ数年、解決のためのノウハウや救済制度は日進月歩で変わってきているが、比較的普遍性の高い「意識」と「知識」の両輪を身につけるのに役立つ本ばかりである。

まず『その印鑑、押してはいけない!』(北健一著、朝日新聞社)で、著者は金融問題を追ってきたジャーナリスト。2004年に刊行されたやや古い本ではあるが、普遍性があり、悪徳業者対策全般に応用が利く良書だ。詐欺にしろ、連帯保証人にしろ、印鑑を押してしまうことからすべての悲劇が始まるからだ。逆にいえば、印鑑の真の恐ろしさを知って、迂闊に署名捺印しないよう注意できれば、悪徳商法や詐欺などにはそう易々と引っかからないはず。

わが国では、民事訴訟法228条4項を根拠に、印鑑を押した書類は真正であるとみなされる。一度ハンコを押したら最後、知りませんでしたでは済まされない社会なのだ。自己防衛が欠かせないことは言うまでもない。『借金しすぎて返せない人へ』(横山光昭著、主婦の友社)は、個人の多重債務を解決する際には、最もオススメの本の一つ。著者は家計再生を数多く手がけてきたファイナンシャルプランナーである。法律家が書いた債務整理マニュアル的な本はいくらでもあるが、この本は多重債務の解決方法という「知識」のみならず、そこに辿り着くための「意識」改革を促すための言葉が豊富に盛り込まれている点で普遍性がある。多重債務は法律的解決方法だけではなく、ほかにも選択肢が残されていることがわかるだろう。

最後に拙著『借金力』(文芸社)は、土壇場の資金繰りに悩む中小企業経営者から、個人の多重債務者、果てはすでに破綻して自殺未遂や夜逃げまでしてしまった人まで、いわゆる末期症状に陥った経済的弱者のための救済マニュアル的なことをふんだんに書いている。もちろんトリビア的な情報も満載だ。これを読めば、ヤミ金やサラ金も怖くなくなるはずである。

※すべて雑誌掲載当時