どんな人も死を避けて通ることはできない。大切な家族を見送るだけでなく、自分にもいずれ、最期のときがやってくる。どちらの場合も、いざとなったときには冷静な判断ができないので、元気なうちに葬儀や墓について考えておくことが大切だ。
昨今では、故人らしい葬送のあり方を模索する人たちが増えている。家族に迷惑をかけないよう、生きている間に考えておこうという風潮もある。形式的な葬儀や不透明で高すぎる費用への不満を持つ人や、子どもがおらず、先祖のお墓の行く末を不安に思う人もいるだろう。
とはいえ、身内の死に頻繁に接することはあまりないので、葬儀や墓のしきたりや慣習、法律に詳しい人は少ないのが現状だ。誤解や間違った思い込みも多い。『Q&Aでわかる葬儀・お墓で困らない本』(大法輪閣)は、葬送専門誌「SOGI」編集長・碑文谷創さんの著書。葬送業界に詳しい重鎮の一人だ。
本の内容は「よい葬儀社の選び方」「祭壇は必要か」「戒名は自分でつけてよいか」などの基礎知識だけでなく、「墓守の負担を子どもにさせたくない」「友人と一緒のお墓に入りたい」「散骨したい」場合の法律やノウハウのほか、会葬の礼儀や作法もわかりやすく解説。おくる側、おくられる側双方の疑問に答える構成になっている。
おくられる側、すなわち自分の葬送について具体的に考えておきたい人は、『自分らしい葬儀とお墓の全てが分かる本』(自分らしい葬送を考える企画委員会編、三省堂)がお薦め。
昨今、死んだら「○○家の墓」に入ることが必ずしも当たり前ではなくなった。子々孫々での継承を前提としない「永代供養墓」もあるし、里山に遺骨を埋め、墓石の代わりに植樹する「樹木葬」や「桜葬」に関心を持つ人も少なくない。
墓に入らないという選択肢も可能だ。遺骨をペンダントなどに加工したり、小さな骨つぼに入れて自宅に安置したりする「手元供養」、思い出の海への「散骨」などだ。
本書では、こうした新しいお墓や葬法のあり方を、業者や市民団体、寺院などが具体的な事例を交えて紹介している。
最近では、家族や親しい人だけでおくる「家族葬」も増えているが、こうした葬儀について考える場合、どんなことに配慮しておけばよいか、何を準備しておくべきか、という点にも触れている。本書を読めば、「葬儀や墓はこうでなくてはならない」という固定観念がなくなるはずだ。
また、自分の場合はどうしてもらいたいか、意思や考えを具体的にまとめておくには「エンディングノート」と呼ばれる記入式の遺言ノートが便利。『幸せのエンディングノート』(主婦の友社)、『大切な人に遺す自分ノート』(すばる舎)、『大切な家族へ伝えたい「エンディングノート」』(角川SSコミュニケーションズ)など各種発売されているので、それぞれ比較して、使いやすいものを選ぶとよい。
いざというときはいつやってくるかわからないし、そのときになって家族に伝えるというわけにもいかない。葬儀に誰を呼んでほしいのか、いつの時点で誰に死の事実を伝えるのか、どの写真を遺影に使ってほしいのか、といった指示があるだけで、家族はずいぶんと助かるはずだ。
意思を伝えておくことは、故人から家族への最後の思いやりだと私は思う。
※すべて雑誌掲載当時