いまとなれば、「すごい決断だった」と驚嘆するが、ずっと、辛い思いをかみしめた。他社はどんどん株式や土地へ投資し、儲けを出し、資産規模で抜いていく。メディアも、生保の評価を資産規模で論じ、自社の評価は下がる一方だった。のちにバブル崩壊で破綻した生保にいた友人に「いくら財務内容がいいと言っても、結局は規模。大きくならないと、ダメだよ」とも言われた。

思えば恥ずかしいことだが、「うちのトップは何を考えているのか」「会社はどうなるのか」などと何度も思い、社長批判も口にした。

でも、社長は、なぜ危機を感じ取ったのだろう。なぜ、変額保険からお客を守ろうとしたのか。もともと、リスクを積極的にはとらない社風が育っていた。でも、それだけではない、と思う。「お客を守る」という発想も、どこからきたのか。そのために、どんな道を歩めばいいのか。いくつもの疑問符が、浮かぶ。

証券リポートや著書を、次々に読む。外部から講師を招き、勉強会も開く。生命保険を離れ、市場や景気などマクロ経済も学ぶ。そうして得たことを考え抜き、自分なりの答えを持つ。それをもとに、部下たちとも議論する。仕事に取り組む軸を固めるため、そんな日々が続く。

バブルの崩壊が明瞭になった92年、商品ファンドを売り込みにきた米国人に「米国で、1番面白いと思う小売業はどこか」と尋ねてみた。

「ノードストロームだ」との答えが返ってきた。彼はシアトル出身で、ノードストロームは、元はシアトルの靴屋。それが高級デパートになって、米国のお客による評価でいつもトップだ、と教えてくれた。

若いころから、よくデパートやスーパーをのぞく。いまは、コンビニにもいく。「商売の原点は小売りにある」と思うからだ。名だたる小売業の経営者たちの著書も、読破した。ある大手スーパーの創業者と親しくなり、いろいろと学ぶなかで、「お客さま第一」ということが繰り返し話題となる。だから、「お客による評価でいつもトップ」という点に、心が動き、勉強や分析の対象にノードストロームも加えた。